「サステナブルな取り組みをしています」という言葉、旅先やニュースでよく見かけます。でも、実際に何をしているのか、その中身まで確認したことはあるでしょうか。
「自然が豊かです」「環境に配慮しています」。そう謳う地域は数多くあります。けれど、宣言と実践のあいだには、思っている以上に距離があることも少なくありません。数値目標を掲げているか。その進捗を公開しているか。第三者機関の認証を受けているか。こうした問いを立ててみると、「本物の取り組み」と「言葉だけの取り組み」の輪郭が、少しずつ見えてきます。
この記事では、日本国内で実際に検証可能な実績を積み重ねている6つの地域を取り上げます。行政の制度だけでなく、住民やNPOが草の根で動かしてきた部分にも触れながら、「サステナブルな取り組み」という言葉の中身を具体的に見ていきます。
この記事で地域を選んだ基準
取り組みの本物度を測る物差しは、大きく二つあります。ひとつは第三者機関による認証。GSTC基準に基づく認証や、Green Destinations、FAOの世界農業遺産(GIAHS)など、外部の目でチェックされているかどうかです。もうひとつは、数値目標と進捗の公開です。「削減します」ではなく、「何を、いつまでに、どれだけ」が示され、実際にどこまで進んだかが追跡できるかどうかです。
この記事で紹介する徳島県上勝町、宮城県南三陸町、熊本県阿蘇地域・熊本市、沖縄県竹富町(西表島)、北海道ニセコ町、石川県金沢市の6地域は、この二つの基準のどちらか、あるいは両方を満たしている場所として選びました。単一の宿泊施設の取り組みではなく、自治体や地域コミュニティ全体で動いている仕組みという点も共通しています。
6つの地域が実践していること
1. 徳島県上勝町 ごみを出さないという選択
上勝町がごみゼロを目指す「ゼロ・ウェイスト宣言」を打ち出したのは2003年、国内では最初の試みでした。町のごみステーションでは45種類ものカテゴリーにごみを仕分けており、直近のリサイクル率は約80%。全国平均が2割程度であることを考えると、この差の大きさが伝わってくるのではないでしょうか。
この仕組みを支えているのは、行政だけではありません。地元住民が2005年に立ち上げたNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーが、分別の指導や住民への声かけといった現場の実務を担い、ごみを出さない工夫をしている店舗を独自に認定する制度もつくりました。焼却に頼らない分、ごみ処理費用は年間約900万円浮き、資源として売れるものからは売却益も出ています。今ではゼロ・ウェイストセンター(WHY)が、他の自治体や企業を受け入れる環境教育の拠点にもなっています。
2. 宮城県南三陸町 海と森をひとつながりで考える
南三陸町では、地元のカキ養殖業者が国内で初めてASC認証を取得しました。FSC森林認証も町として得ており、Green Destinations Top 100にも選ばれています。
数字を見ていくと、この町の取り組みの厚みがわかります。生ごみは分別回収を経て、その多くがバイオガスや液体肥料として再利用されており、年間の処理量は約1,200トンにのぼります。カキ養殖では、いかだにかける量を減らして密度を下げたことで、育つまでの期間が3年から1年に縮まり、身の質も上がりました。震災後、防潮堤の建設などで子どもたちが海から遠ざかってしまったことに危機感を持った地元の母親や漁師たちは、2012年にNPO法人浜わらすを立ち上げ、海や山で遊ぶ体験を通して、この土地に根づいてきた自然との付き合い方を次の世代につないでいます。
3. 熊本県阿蘇地域・熊本市 水を涵養するという発想
熊本市の水道水は、そのほぼ全量を地下水でまかなっています。冬場、使われていない田んぼに川の水を引き入れる「水田かん養」という方法で、市と周辺11の市町村が連携し、年間およそ627万立方メートルの地下水を人工的に涵養してきました。この数値は毎年きちんと測定され、公開されています。半導体工場の進出が決まった際にも、使う分より多くの水を涵養することを目指す協定が企業側と結ばれ、開発と水源保全を両立させる仕組みがつくられました。
この地域を語るうえで、阿蘇の草原も欠かせません。千年以上にわたって続けられてきた野焼き、放牧、採草という営みが、この独特な草原景観を保ってきました。この農法はFAOの世界農業遺産にも認定されています。ただ、担い手の高齢化で野焼きの人手は年々足りなくなっていました。そこで1995年に発足した公益財団法人阿蘇グリーンストックが都市部からボランティアを募る仕組みをつくり、今も毎年1,000人規模の人手が野焼きを支えています。
4. 沖縄県竹富町・西表島 訪れる人数を制限するという決断
西表島は2021年にユネスコの世界自然遺産に登録されました。この島がほかと違うのは、「観光客をどこまで受け入れるか」という問いに、具体的な数字で答えようとしているところです。
「西表島エコツーリズム推進全体構想」のもと、ヒナイ川なら1日200人、テドウ山なら1日30人というように、場所ごとに立ち入れる人数の上限が決められています。年間の観光客数についても約33万人という目安が設けられ、エコツーリズム推進法に基づく制度と、認定ガイドの同行や事前申請といった運用ルールを組み合わせて実行されています。世界中でオーバーツーリズムが問題になるなか、受け入れ側から積極的に人数を絞るという判断を、仕組みとして目に見える形にしているのがこの島の特徴です。
5. 北海道ニセコ町 観光の成果を数字で追う
ニセコ町は2023年にGreen Destinationsの認証(Silverレベル)を取得し、Top 100にも複数回選ばれています。この町らしいのは、「持続可能な観光振興ビジョン」という指針を掲げるだけでなく、環境に配慮した行動をとる旅行者がどれくらいいるか、地元高校と組んで進める観光人材育成プログラムがどこまで達成できているかを、継続して数字で追いかけて公表している点です。
理念を掲げるところで止まらず、実際にどこまで進んだかを測り続ける。地味な作業ですが、この積み重ねが、宣言だけの取り組みとの違いを生んでいます。
6. 石川県金沢市 観光収益の使い道を公開する
金沢市はユネスコ創造都市ネットワークのクラフト&フォークアート分野に名を連ね、加賀友禅や金箔といった伝統工芸の担い手を支援しています。この街の特徴は、宿泊税がどこに使われているかを詳しく公開していることです。年間数億円規模になる税収が、景観の保全やオーバーツーリズム対策のどの事業に充てられたか、決算資料を通じて追うことができます。
町家と呼ばれる歴史的な木造建築を残す動きも、行政だけで進んできたわけではありません。2005年、建築家や研究者、地元の有志が集まってNPO法人金沢町家研究会を結成し、使われなくなった町家の持ち主と、それを使いたい人とをつなぐ活動を積み重ねてきました。これまでに関わってきた町家再生の件数は300軒を超えており、地道な橋渡しの成果と言えます。
本物とラベルを見分けるには
ここまで見てきた6地域には、共通する特徴があります。「守ります」という宣言だけで終わらせず、何をどれだけ、というところまで踏み込んでいることです。上勝町のリサイクル率、熊本の地下水涵養量、西表島の入域管理指標、ニセコ町のモニタリング結果、金沢市の税収の使途公開。どれも、後から確かめられる形になっています。
もうひとつの共通点は、行政と住民が両方で動いていることです。仕組みをつくるのは行政でも、現場を実際に動かしているのは、ゼロ・ウェイストアカデミーや阿蘇グリーンストック、金沢町家研究会のように、住民自身が立ち上げた団体であることが多いのです。宣言だけが先に出て、実行する人が育っていない取り組みとは、この点が大きく違います。
他の地域の取り組みを自分で調べる機会があれば、「認証は取っているか」「数字は公開されているか」「担い手は誰なのか」という3つを聞いてみると、ラベルの奥にあるものが見えやすくなります。
旅行者・生活者として関われること
大きなことをする必要はありません。ふるさと納税を通じて、環境保全や文化の継承に力を入れている地域に寄付先を選ぶことも、ひとつの関わり方です。西表島のように入域のルールがある場所を訪れるときは、そのルールを守ること自体が、地域の仕組みへの参加になります。
そして、こうした取り組みを知っておくことにも意味があります。仕組みの存在を知る人が増えれば、それを続けている人たちにとっての支えになるからです。
おわりに
「サステナブルな取り組み」という言葉が指すものは、地域によってまったく違います。ごみを出さないことを選んだ町もあれば、地下水を涵養するという発想を持つ地域もあり、観光客の数そのものを制限すると決めた島もあります。共通しているのは、どの地域も言葉だけで終わらせず、数字と担い手を持っていたということです。
あなたの暮らす場所、あるいはこれから訪れたい場所には、どんな検証可能な取り組みがあるでしょうか。








