「サステナブルなホテルに泊まりたい」。山岳観光地として名高い長野県では、この言葉が単なるキャッチコピー以上の重みを持つ場面によく出会います。上高地や志賀高原のように、そもそも建築や排水に厳しい規制がかかる国立公園内に立地するホテルが多いからです。
ただ、規制があることと、ホテルが自主的に何をしているかは別の話です。「エコ」「サステナブル」と謳っていても、根拠が公式に確認できるところもあれば、そうでないところもあります。
今回は、各施設の公式サイトを一件ずつ見にいき、認証の有無や環境施策の具体性、地域社会との関わり方を整理しました。どこが一番良いという記事ではなく、自分の旅の目的に合う宿を選ぶための材料として読んでいただけたらと思います。
編集部の選定基準
今回は、次の5つの視点でホテルを絞り込みました。あくまで「公式情報として確認できたかどうか」を基準にしているので、ここに載っていないホテルが何もしていないという意味ではありません。
- 第三者認証・公的スタンダードの取得状況 GSTC承認のスタンダードに基づく「Sakura Quality An ESG Practice」、国際エコラベル「Green Key」、「ゼロカーボンパーク」のような国の制度への選定など、外部機関が関わる認証・登録を公式に公表しているか
- 情報開示の透明性 エネルギー・水・廃棄物についての取り組みが、具体的な施策や方針として公式サイトで確認できるか
- 環境パフォーマンスの具体性 再生可能エネルギーの利用や節水、廃棄物削減、脱プラスチックなどが、掛け声だけで終わっていないか
- 地域社会・文化への貢献 地元雇用や地域事業者との連携、伝統文化・景観の保全が公開されているか
- 国立公園・エコパーク等の立地特性 上信越高原国立公園や中部山岳国立公園といった、法的な環境規制の中でどう運営されているか
掲載情報は2026年7月時点で各施設の公式サイトを個別に確認した内容です。チェーン系ホテルについては、グループ共通の施策と施設固有の取り組みをできるだけ分けて書いています。
施設紹介
1. 上高地帝国ホテル
場所|松本市安曇上高地・中部山岳国立公園内
施設の特徴
1933年開業、赤い屋根と丸太小屋風の外観で知られる上高地の老舗ホテルです。冬期は閉鎖され、開山期のみの営業となります。
サステナブルな取り組み
公式サイトのサステナビリティページによると、宿泊施設品質認証「Sakura Quality An ESG Practice」で最高評価の「5御衣黄ザクラ」を取得しています。2022年からは「信州Greenでんき」の導入と、灯油・ガス使用分のカーボンオフセットで、実質CO2ゼロの運営を続けているとのことです。客室アメニティは竹製・木製に切り替え、プラスチック使用量を約9割減らしました。
ロビーには電力を使わないサイフォン式の水汲み場があり、六百山の湧水を提供しています。紙製容器への切り替えとあわせて、年間5,000本以上のペットボトル削減を目標に掲げているそうです。生ごみは全量たい肥化し、そのたい肥で育てた野菜をレストランで出すという循環も作っています。
開業当時からの赤い屋根を守り続けてきたことが評価され、2002年にBELCA賞ロングライフ部門を受賞。エコマークや、フォーブス・トラベル・ガイドのVERIFIED Responsible Hospitalityも取得済みです。
こんな人に向いています
電力を使わない設備まで含めた脱炭素・脱プラスチックの取り組みを具体的に知りたい方。歴史的建築を長く守り続けることに価値を感じる方。
気をつけたいこと
冬期は閉鎖されるため、通年での宿泊はできません。上高地自体がマイカー規制区域なので、アクセス手段は事前に確認しておくと安心です。
予約・詳細
一休2. 扉温泉 明神館
場所|松本市入山辺・八ヶ岳中信高原国定公園内
施設の特徴
ルレ・エ・シャトー加盟の温泉旅館です。2009年に日本で初めて国際エコラベル「グリーンキー」を取得し、いまも更新を続けています。
サステナブルな取り組み
自家農場「扉農場」で栽培した無農薬野菜や米を使い、地産地消を実践しています。客室には天然珪藻土の壁や無垢材フローリング、オーガニック素材のリネンが使われています。生ごみやコーヒーガラのたい肥化、水のリサイクルによる館内空冷、川の水を使った散水など、資源を循環させる仕組みがいくつも確認できました。
長野県が運営する「長野県SDGs推進企業登録制度」にも登録されています。
こんな人に向いています
国際エコラベルを日本で一番早く取得した実績を重視したい方。自家農園での地産地消や、素材選びの丁寧さに惹かれる方。
気をつけたいこと
給湯や空調にどんな熱源を使っているかという具体的な数値の公開は見つかりませんでした。就労支援事業との連携や、歴史的建築の文化財指定といった記述をネット上の紹介記事で見かけることがありますが、今回確認した公式ページには載っていなかったため、この記事には含めていません。
予約・詳細
一休3. 星のや軽井沢
場所|北佐久郡軽井沢町・軽井沢野鳥の森隣接
施設の特徴
星野リゾートが運営する、渓谷沿いの集落のようなコンセプトのラグジュアリーリゾートです。
サステナブルな取り組み
「Energy In My Yard(敷地内でエネルギーを生産する)」というコンセプトのもと、1929年創設の自家水力発電、地中熱、温泉排湯熱を利用したヒートポンプシステムを動かしていて、エネルギー自給率は公式サイトで「約7割」と説明されています。客室の屋根には「風楼」と呼ばれる自然換気の仕組みがあり、空調に頼らない室内環境を作っています。
生ごみの再資源化にも取り組んでいて、在来種に限定した植栽計画や、浅間山麓の伏流水を客室で提供することによる脱プラスチックの工夫も見られました。
こんな人に向いています
再生可能エネルギーを活かした建築の工夫に関心がある方。エネルギー自給という切り口でリゾート滞在先を選びたい方。
気をつけたいこと
ネット上には「CO2排出量70%削減」「投資回収1年8か月」といった具体的な数値や、特定の賞の受賞歴を紹介する記事も見かけますが、今回確認した公式ページにはこれらの記載がなかったため、この記事では採用していません。数値の詳細が気になる方は、公式サイトで直接確認することをおすすめします。
予約・詳細
4. 軽井沢マリオットホテル
場所|北佐久郡軽井沢町長倉
施設の特徴
森トラスト・ホテルズ&リゾーツが運営する、マリオット・インターナショナル系列のホテルです。塩沢温泉と新軽井沢温泉、2種類の泉質を楽しめます。
サステナブルな取り組み
GSTC承認基準に基づく「Sakura Quality An ESG Practice」で「4御衣黄桜」を取得していることが、森トラスト・ホテルズ&リゾーツの公式ページで確認できます。客室アメニティを木製・竹製など環境配慮型の製品に切り替えたほか、宿泊者へのマイアメニティ持参の呼びかけや、一部アメニティの有料化でプラスチック使用量を減らす取り組みも行っています。
地域との関わりでは、落ち葉のたい肥再利用、生産者向け料理教室、地元中学生の職業体験、発酵食文化の発信団体「発酵バレーNAGANO」との共催イベントなどが公式サイトに載っていました。
こんな人に向いています
GSTC承認の認証取得を判断材料にしたい方。信州の発酵食文化や、地域の教育プログラムとの連携に関心がある方。
気をつけたいこと
確認できたのは主に認証取得とアメニティ関連の施策、地域連携のイベントです。エネルギーや水資源についての具体的な数値は公開されていませんでした。
予約・詳細
一休5. コートヤード・バイ・マリオット白馬
場所|北安曇郡白馬村北城
施設の特徴
森トラスト・ホテルズ&リゾーツが運営する、白馬エリアのマリオット系列ホテルです。
サステナブルな取り組み
「Sakura Quality An ESG Practice」で「4御衣黄桜」を取得しています。姫川ダムやみそら野地区での清掃活動への定期参加、白馬村特産の「ほおづき」を使った子供向け職場体験プログラム、地元農家と共同開発した信州ローカルフード「五平餅」の新メニュー、地元大学の教育プログラムへの協力など、地域との関わりが公式サイトで紹介されています。
こんな人に向いています
地域清掃活動や子供向け職場体験など、地域コミュニティとの関わりが具体的な施設を探している方。
気をつけたいこと
確認できたのは認証取得と地域連携活動が中心です。エネルギーや廃棄物量に関する数値の公開は見つかりませんでした。
予約・詳細
一休6. 黒部観光ホテル
場所|大町市大町温泉郷
施設の特徴
北アルプスを望む大町温泉郷にある、BBHホテルグループのホテルです。
サステナブルな取り組み
環境省の低炭素社会キャンペーン「Fun to Share」に参画・宣言しています。「食品ロス削減国民運動」「食べ残しを減らそう県民運動」に賛同し、食べ残しゼロを呼びかけているほか、生ごみの全量たい肥化、ビン・缶・ペットボトルの分別リサイクル、順次のLED化を進めています。
社会貢献の面では、NPO法人「夢の実」が作るクッキーを売店で扱うことによる障がい者雇用支援、NPO法人「みとろクリエイト」への使用済みタオル提供(ぞうきん縫製に活用)、長野県の「信州あいサポート運動」への登録といった具体的な連携が確認できました。大町温泉郷青年部や商工会議所青年部への参加を通じた地域活性化にも取り組んでいます。
こんな人に向いています
環境施策だけでなく、地域のNPOと連携した障がい者雇用支援など、社会面での取り組みも重視したい方。
気をつけたいこと
ネット上には「客室内使い捨て歯ブラシの廃止」「月2回の環境美化清掃」といった記述も見かけますが、今回確認した公式ページには記載がなく、この記事では採用していません。
予約・詳細
一休7. スカイランドホテル
場所|下高井郡山ノ内町・志賀高原一の瀬(上信越高原国立公園内)
施設の特徴
志賀高原一の瀬エリアにある、収容120名規模の中規模ホテルです。
サステナブルな取り組み
公式SDGsページでは、国立公園内の建築規制(高さ制限・外壁色制限)や植栽保護を守っていること、生活排水を環境基準の10分の1以下まで浄化してから放出していることが紹介されています。
節水シャワーヘッドや自閉栓カランの採用、LED照明への交換、地場産品を取り入れた食事による食品ロス削減、連泊時のシーツ・アメニティ交換回数の削減、熱交換器を使ったCO2削減にも取り組んでいます。宿泊者に歯ブラシの持参を呼びかけ、削減できた原価分にホテル側の寄付を上乗せしてNPO法人へ贈るという仕組みも公式サイトに載っていました。
こんな人に向いています
国立公園の建築・排水規制という制約の中で、ホテルがどこまで具体的な環境対策を積み上げているかを知りたい方。
気をつけたいこと
寄付先のNPO法人名や、年間の具体的な寄付実績額は公式サイト上に明記されていません。
予約・詳細
8. 白馬東急ホテル
場所|北安曇郡白馬村北城
施設の特徴
東急ホテルズグループが運営する、白馬エリアのリゾートホテルです。
サステナブルな取り組み
客室アメニティ(歯ブラシなど)を使わなかった場合にフロントで基金へ換算する「グリーンコイン」制度、連泊時の清掃・リネン交換回数を抑える「グリーンカード」「Earth Friendly Stay」を導入しています。これは白馬東急ホテル単独の取り組みではなく、東急ホテルズグループが全国30以上の系列ホテルで共通して行っている環境施策で、白馬東急ホテルもその一員として参加しているかたちです。
集まった基金は国際協力NGOオイスカの「子供の森」計画(海外緑化)や、山梨県丹波山村での「東急ホテルズ・グリーンコインの森」植林活動に充てられています。公式サイトによると、2024年度の実績は37,918枚分の寄付、累計では229万枚を超え、23回目の寄付となったそうです。
こんな人に向いています
自分が使わなかったアメニティが具体的な植林活動につながる、参加型のエコ施策を体験してみたい方。
気をつけたいこと
グリーンコイン・グリーンカードは東急ホテルズグループ共通の制度である点は知っておくとよいでしょう。白馬東急ホテル固有のエネルギー・水資源データの公開は見つかりませんでした。
予約・詳細
一休9. 温泉の宿 ゲストハウス雷鳥
場所|松本市安曇・乗鞍高原(中部山岳国立公園内)
施設の特徴
乗鞍高原にある温泉宿で、併設カフェ「GiFT NORiKURA」も運営しています。
サステナブルな取り組み
乗鞍高原は2021年3月、環境省から国内第1号の「ゼロカーボンパーク」に登録されたエリアです。この宿の公式サイトでも、その位置づけがきちんと書かれています。マイボトルやタンブラーの利用を促すために無料のボトルレンタルを提供していて、ペットボトルやプラスチック容器の廃棄を減らす工夫をしています。
こんな人に向いています
環境省認定「ゼロカーボンパーク第1号」という、地域ぐるみの取り組みに参加したい方。国立公園内で自転車や徒歩を中心に過ごしたい方。
気をつけたいこと
生ごみ処理機によるたい肥化率や、松本市「まつもとエコ旅宣言」との連携についての具体的な記載は、今回確認した公式ページの範囲では見つかりませんでした。
予約・詳細
補足|この記事を読んだあとに確認してほしいこと
- 「Sakura Quality An ESG Practice」はGSTCが承認したスタンダードに基づく認証ですが、審査内容や評価結果の詳細は、ホテルの公式サイトだけでなく認証機関側の公開情報でも確認してみることをおすすめします
- マリオット系列や東急ホテルズ系列のようなチェーン系ホテルは、グループ全体で共通実施している施策と、その施設だけの取り組みを分けて見ることが大切です。白馬東急ホテルはその一例です
- 「ゼロカーボンパーク」や「長野県SDGs推進企業登録制度」のように、個々のホテルではなく地域や自治体単位の制度に基づく取り組みもあります。ホテル自身の努力なのか、地域全体の枠組みによるものなのかを分けて考えると理解しやすくなります
- 掲載を見送った施設の中には、休館中や営業体制を変更している最中のものもありました。宿泊を検討する際は、必ず最新の営業状況を公式サイトで確認してください
まとめ|あなたの「選ぶ理由」はどこにありますか?
今回紹介した9施設は、いずれも公式情報として何かしらのサステナビリティへの取り組みが確認できました。ただ、その中身は施設によってかなり違います。
GSTC承認基準に基づく認証で最高評価を得ているのが上高地帝国ホテル、国際エコラベルを日本で一番早く取得したのが扉温泉明神館です。自家水力発電など建築や設備で自給自足を追求しているのが星のや軽井沢、マリオット系列で地域教育や清掃活動との連携を打ち出しているのが軽井沢マリオットホテルとコートヤード・バイ・マリオット白馬です。
国立公園の厳しい規制の中で排水処理まで踏み込んでいるのがスカイランドホテル、地域NPOとの雇用連携が具体的なのが黒部観光ホテル、宿泊客参加型の仕組みを持つのが白馬東急ホテル、そして国が指定する「ゼロカーボンパーク」という地域全体の枠組みの中にあるのが温泉の宿ゲストハウス雷鳥です。
長野県の宿泊施設を見ていて感じたのは、国立公園やエコパークという法的な制約を、できないことの言い訳にするのではなく、独自の環境技術や地域連携のかたちに変えているところが多いということでした。どの取り組みを自分が大事にしたいか。それを考えることは、旅そのものに何を求めるかを問い直すことでもあるように思います。この記事がその整理の一助になれば幸いです。
掲載情報は各ホテルの公式サイトに基づき、2026年7月時点で確認できた内容を記載しています。情報は予告なく変更される場合があります。最新情報は各施設の公式サイトでご確認ください。








