「PFOAフリー」と書かれた鍋を選べば、避けたかったものは入っていない。
そう考えて選んだことがあります。売り場にはいろいろな鍋があって、何を選んだらいいか分かりませんでした。
2021年、アメリカの非営利の研究室が、4つの鍋の表面が何でできているかを直接調べています。2つは表示どおりのセラミック。残りの2つは、「PFOAフリー」と書かれていながら、中身は PTFE(フッ素樹脂の一種)でした(1)。
嘘をついたわけではないと思います。「PFOAフリー」は本当だったのでしょう。ただ、その表示は、買う人が知りたかったことに答えていません。
私は医師でも科学者でもないので、体にどう影響するかは書きません。 書けるのは、調べて確かめられたことだけです。
書くのは3つ。表示から何が分かるか、いつ替えるか、そして長く使うにはどう選ぶか。
「体に害のない鍋」を探してここへ来た人にも、たぶん役に立ちます。答えのある場所が、思っているのとは少し違うだけです。
長く使える鍋は、どう選ぶのか?
| 知りたいこと | この記事の答え |
|---|---|
| 「PFOAフリー」なら安心か | 選ぶ材料になりません。いま売られているフッ素加工の鍋のほぼ全部に当てはまる表示で、表面の PTFE(テフロン)はそのままです |
| いつ替えるか | 塗膜に傷・浮き・剥がれが出たとき。それまでは使い切る |
| 長く使うには | 外側に加工のない鍋を選び、中火以下で使う。予熱で鍋から目を離さない |
環境のために選ぶなら、見るのは素材の名前ではありません。塗膜の傷と、火加減です。
鍋を1つ作るには、素地の金属を掘って、精錬して、成形して、運ぶ必要があります。その負荷は、買い替えるたびにもう一度発生します。使う年数が延びるほど、1年あたりの負荷は小さくなる計算。
いちばん負荷が大きいのは、まだ使える鍋を捨てることです。
不安から探している人にとっても、着く場所は同じ。傷のない鍋から溶け出す量は、測ろうとしても判定できないほど小さい。一方で、粒子の出どころとして挙げられているのは、傷のついた表面です。
だから、替えるのは傷んだとき。
関連記事:一生使える鍋のブランド|素材と、修理できるかで選ぶ
「PFOAフリー」は参考にならない理由
PFOA は製造の道具、PTFE が表面の素材
まず、言葉が混乱しています。
PFOA(ペルフルオロオクタン酸)は、塗膜の成分ではありません。フッ素樹脂を作るときの乳化剤、つまり製造の道具です。鍋の表面に残る素材そのものは PTFE(ポリテトラフルオロエチレン。商品名テフロンで知られます)で、国際的な定義ではこの PTFE も PFAS の一種に入ります(2)。
「PFOAフリー」は製造工程の話で、「PFASフリー」は素材の話。前者を確認しても、後者は分かりません。
しかも、業界団体は取扱いマニュアルにこう書いています。「その結果、ふっ素樹脂製品に関しては、国内外において2013年末までにPFOAの使用を全廃いたしております」。国が製造・輸入を原則禁止にしたのは、その8年後の2021年10月でした(3, 4)。
「PFOAフリー」と書いてある鍋と、書いていない鍋。並べて分かるのは製品の違いではなく、メーカーがその文言を印刷したかどうかです。全部に当てはまる条件は、選ぶための情報になりません。
それでもこの表示に力があるのは、2023年に PFOA へ最も強い区分の評価が付いたからです。一方の PTFE は1987年の「分類できない」のまま、40年近く更新されていません(5, 6)。評価の中身を、私は判断できません。
表示に書いてあるのは、加工の名前だけ
日本の表示から、コーティングの中身は取れません。
鍋やフライパンには、家庭用品の表示を定めた法律で、表面加工の種類を書く義務があります。ただし書いてよい言葉は7つに決められていて、フッ素樹脂加工にあたるのは「ふっ素樹脂塗膜加工」の一語だけです(7)。
PTFE なのか、何層なのか、下地の接着樹脂は何なのか。どこにも出てきません。
中身を開示させている法律は、調べたかぎり米国の州法だけでした。カリフォルニア州とコロラド州が、調理器具に意図的に加えた物質をラベルに書かせています(8, 9)。
どちらも、「〜フリー」と書けるのは実際に加えていないときだけ、と定めています。使用を禁じるのではなく、隠すことを禁じるという作り方です。
だから、見る対象は表示ではなく現物になります。左が保証していること、右が保証していないことです。
| 表示・制度 | 保証すること | 保証しないこと |
|---|---|---|
| 「PFOAフリー」表示 | 製造時に PFOA を使っていないこと | PTFE の不在。PFAS 全般の不在(1) |
| 「ふっ素樹脂塗膜加工」の表示 | 表面加工の種類 | 樹脂の種類・層構成・接着層の組成(7) |
| 「基準に適合」(溶出試験) | 無傷の新品を静置したときの溶出量 | 傷から落ちる粒子。ppt レベルの個別 PFAS(重量法では原理的に測れない)(10, 11) |
| 「セラミック」表示 | (なし) | 横断的な法的定義がないため、何も保証しない(12) |
替えどきは、塗膜が傷んだとき
溶けるより、剥がれる
替えどきの目印は、素材の名前でも使った年数でもありません。塗膜の傷です。
傷のない鍋から溶け出す量は、判定できないほど小さい。米国の食品医薬品局が2005年に測った結論はこうです。「調理器具に見つかった抽出可能な残留 PFOA の量は、調理温度で PTFE コーティング調理器具から水や油へ物質移動が起きるかどうかを判定できるほど多くはない」(13)
いま売られている製品ではどうか。2024年、ドイツの研究チームがフライパン5枚を250℃に加熱し、出てきた気体から18種類の PFAS を探しました。結果は5枚すべてで不検出です。PFOA がまだ使われていた2007年の鍋では、4つの銘柄すべてから PFOA が気体として出ていました(14, 15)。
材料が変わったということ。2007年の数字を、いまのフライパンに当てはめるのは間違いです。
ただし2024年の結果は「探した18物質が出なかった」であって、「何も出なかった」ではありません。同じ研究では、PFAS 以外の有機化合物が175種類、いずれも微量で見つかっています。
粒子は、別の経路です。2022年の研究の抄録は、鍋から落ちる微粒子の出どころとして傷のついた表面を挙げ、模擬的な調理で数千から数百万個が放出されうると推定しています(11)。
分子として溶け出すのではなく、粒子として剥がれる。効いてくるのは素材の名前ではなく、コーティングの状態です。
そして規制で決められている試験は、傷のない新品を静かに浸けて行います。使い込んだ鍋、金属のヘラで擦った鍋、コーティングが浮いている鍋は、試験の設計上、最初から対象外。
「基準に適合しています」が保証しているのは、ここまでです。
いま持っている鍋の見方
見るのは2か所です。塗膜と、外側面。
| 塗膜の状態 | どう考えるか |
|---|---|
| 傷も剥がれもない | 溶け出す量は判定できないほど小さい。替える理由が出てこない(13) |
| 細かい傷がある | 粒子の出どころは傷のついた表面。規制の試験はこの状態を見ていない(11) |
| 塗膜が浮いている・剥がれている | 非粘着性能も落ちている。替えどき |
| 外側面にも加工がある | 炎が触れる部分では塗膜の分解が始まる。工業会が推奨していない仕様(3) |
傷んでいない鍋を、不安だからという理由で捨てる根拠は、ここからは出てきません。 むしろ逆です。その鍋を作るためにかかった負荷は、使った年数で割るしかありません。早く手放すほど、1年あたりの負荷は大きくなります。
長く使うための選び方
長く使うために効くのは、素材の選び直しではありません。買うときに鍋を裏返すこと、そして火加減です。
外側に加工がない鍋を選ぶ
売り場の売り文句と、業界団体の見解が食い違っている例があります。工業会のマニュアルは、フライパンの外側面への加工について、こう書いています。
フライパン外側面でも、ふっ素樹脂の融点を超えた高温となります。さらに炎がふれる部分では、塗膜の分解が始まります。このことから、外側面に対するふっ素樹脂加工は、工業会として推奨いたしません。(3)
「外側までフッ素加工だから汚れが落ちやすい」は、店頭でも通販の説明でも売り文句として使われています。 それが、樹脂を作っている側の推奨に反しています。
鍋を裏返せば確認できます。売り場でも、いま台所にある鍋でも同じです。
火加減が、塗膜の寿命を決める
中火以下で使えば、塗膜は長く保ちます。危ないのは予熱です。
業界団体のマニュアルには、意味の違う温度が段階的に並んでいます。通常の調理で鍋が届くのは150〜190℃。食用油から煙が出始めるのが200℃を超えたあたり。そして260℃が、PTFE の使用温度の上限です。
260℃は融点ではありません。「これを超えて使い続けると塗膜が傷みやすい」という線です。塗膜が傷めば鍋の寿命が縮むので、火加減によって、買い替えの周期が変わります。
空焚きは、思っているより速く進みます。同じマニュアルによれば、融点に達するまでガス中火で3〜4分、強火で約2分。IH でも、底が薄い、あるいは反っているフライパンを最大火力で予熱すると赤熱することがある、と書かれています。
火加減についての指示は、もっと素朴です。「必ず中火にて使用してください。中火とは底に炎が触れる程度を指します」。炎が鍋底の縁を巻いて側面に回っている状態は、中火ではありません(3)。
セラミックはどうか?
私は、セラミックなら安心して使えるだろうと信用していました。ただ、そう簡単な話ではないようです。
「セラミックとはこれを指す」と横断的に定めた規定は、米国・EU・日本のいずれにも確認できませんでした(12)。定義がなければ、表示は何も保証しません。冒頭の検査で「PFOAフリー」と PTFE が同居していたのと、同じ構造です。
どちらが長く持つかを比べた研究もあります。2025年、スペインの研究チームが、5種類のセラミックコーティングと PTFE を同じ条件で比べました。PTFE は90回の調理サイクルのあとも安定していて、食材をはがすのに要る力は、最良のセラミックの最大3分の1。
ただし5種のうち2種は健闘し、論文自身も「配合の改良が進めばセラミックが主流になりうる」と結んでいます(16)。
塗膜が早く傷めば、買い替えが早まります。そのぶん、素地の金属を掘って精錬する負荷が、短い周期で繰り返されます。
素材別に、製造から廃棄までの環境負荷を同じ条件で比べた独立研究は、見つかりませんでした(17)。
耐久性を織り込んだ比較で見つかったのは、ティファール(グループSEB)自身の公表だけでした。PFAS 規制から調理器具を除外させた当事者の主張なので、根拠としては弱いと判断しました(18, 19)。
フランスに住んでいたころ、使っていたのはフッ素加工の鍋です。当時はこうした情報をほとんど知らず、気にせず5年ほど同じものを使いました。だんだん食材が底にくっつくようになって、買い替えました。
いま使っているステンレスの鍋は、日本に来てから買ったものです。長く使えて、フッ素加工ではないものが欲しかったので、ステンレスにしました。
2つ買って、今でも使っています。6年くらいは使えていて、手入れも楽なので、このまま引き続き使おうと思います。コーティングされていない鍋だと、長く使える感じがします。
さいごに
キッチンで安心して使える鍋を選びたい、という気持ちは分かります。口に入るものを作る道具だから、心配のないものがいい。私もそう思って選んできました。
ただ、フッ素樹脂については、作られるときと捨てられたあとに何が起きるかも、あわせて見てほしいと思っています。
2020年の査読論文によれば、フッ素樹脂は環境条件下で極めて残留性が高く、焼却しても非常に安定な副生成物が残ります。消費者向け製品に使われたものは他の物質と混ざるため、リサイクルも確立していません。PTFE の微粒子は、地中海の魚と北極海の堆積物からも検出されています(20)。
台所で剥がれた粒子がそこへ行き着いた、という話ではありません。そこまで追跡した研究はありません。
フッ素樹脂を「低懸念ポリマー」として規制から外してよいか。この論争は10年近く続いています。外してよいとする側の主張は、高分子の PTFE は水にも油にも溶けず、細胞膜を通れないほど大きい、というもの。ただし、その論文の著者16人のうち15人は、フッ素樹脂メーカーの所属です(21)。
批判する側は、境界の引き方が違います。製造時に使う助剤、焼却したときの副生成物、環境中に残る分まで含めた評価です。
対立しているのは、有害性の見積もりではありません。どこからどこまでを「その素材」と呼ぶか、です。
「使っている間は安全」と「地球にとって安全」は、別の問い。
まずは、いま持っている鍋を長く使う工夫から。塗膜の状態を見て、傷んだものだけを替える。火から目を離さない。 どちらも、工業会が書いている使い方とそのまま重なります。長く使う工夫は、フッ素加工の鍋を心配なく使う工夫でもある、ということです。
始めるなら、鍋を1つ持ち上げて、外側と縁を見るところから。
そのうえで、どうしても買い替えるときには、作られ方まで見て選んでほしいと思っています。
出典
- Ecology Center Healthy Stuff Lab, “Still Cooking: An Update on Toxic PFAS in Cookware Products”(2021)/”What’s Cooking?”(2020).
- OECD (2021) Reconciling Terminology of the Universe of Per- and Polyfluoroalkyl Substances: Recommendations and Practical Guidance, OECD Series on Risk Management No. 61.
- 日本弗素樹脂工業会 環境委員会『ふっ素樹脂の取扱いマニュアル』改訂11版、2021年2月.
- 経済産業省「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律施行令の一部を改正する政令が閣議決定されました」2021-04-16. /環境省「PFOAとその塩及びPFOA関連物質に係る追加措置」.
- IARC “IARC Monographs evaluate the carcinogenicity of perfluorooctanoic acid (PFOA) and perfluorooctanesulfonic acid (PFOS)”(2023-12-01). /Zahm S, et al. Lancet Oncol, 2023-11-30.
- 内閣府食品安全委員会「フッ素樹脂(概要)」ファクトシート(2012年).
- 消費者庁「鍋」(家庭用品品質表示法・雑貨工業品品質表示規程).
- California Health & Safety Code §109000-109014(AB 1200).
- Colorado House Bill 22-1345 “Perfluoroalkyl And Polyfluoroalkyl Chemicals”(2022年成立).
- 厚生労働省「食品、添加物等の規格基準」(昭和34年厚生省告示第370号)第3 器具及び容器包装. /EU (EU) No 10/2011. /FDA 21 CFR §177.1550.
- Yunlong Luo, et al., “Raman imaging for the identification of Teflon microplastics and nanoplastics released from non-stick cookware”, Science of the Total Environment, 851(Pt 2): 158293, 2022. DOI: 10.1016/j.scitotenv.2022.158293
- 欧州委員会 “Food Contact Materials — Legislation”. /EU Directive 84/500/EEC.
- Timothy H. Begley, et al., “Perfluorochemicals: potential sources of and migration from food packaging”, Food Additives and Contaminants, 22(10): 1023–1031, 2005. DOI: 10.1080/02652030500183474
- Ewan Sinclair, et al., “Quantitation of Gas-Phase Perfluoroalkyl Surfactants and Fluorotelomer Alcohols Released from Nonstick Cookware and Microwave Popcorn Bags”, Environmental Science & Technology, 41(4): 1180–1185, 2007. DOI: 10.1021/es062377w
- Nancy Wolf, et al., “Analysis of PFAS and further VOC from fluoropolymer-coated cookware by thermal desorption-gas chromatography-mass spectrometry (TD-GC-MS)”, Food Additives & Contaminants: Part A, 41(12): 1663–1678, 2024. DOI: 10.1080/19440049.2024.2406007
- Guillermo Guerrero Vacas, et al., “Towards a greener kitchen: Can sol-gel ceramic non-stick coatings replace polytetrafluoroethylene?”, Results in Engineering, 2025.
PFAS・PTFE・PFOAの規制と表示- Tefal “Our Commitments“. /“The lifecycle, maintenance and recycling of Tefal pans“.
- France 24 “Kitchenware excluded from French PFAS ban after intensive lobbying” 2025-02-20.
- Rainer Lohmann, et al., “Are Fluoropolymers Really of Low Concern for Human and Environmental Health and Separate from Other PFAS?”, Environmental Science & Technology, 54(20): 12820–12828, 2020. DOI: 10.1021/acs.est.0c03244
- Stephen H. Korzeniowski, et al., “A critical review of the application of polymer of low concern regulatory criteria to fluoropolymers II: Fluoroplastics and fluoroelastomers”, Integrated Environmental Assessment and Management, 19(2): 326–354, 2023. DOI: 10.1002/ieam.4646








