「サステナブルチョコレート」という言葉を見かける機会が増えましたが、それが何を意味し、私たちの暮らしとどうつながっているのかをきちんと理解している人はまだ多くありません。私自身も、数年前まではチョコレートを選ぶときに「美味しさ」や「価格」しか気にしていませんでした。でも、その甘さの裏側にある現実を知ったとき、チョコレートの見方が大きく変わったんです。
この記事では、チョコレートの”甘さの裏側”にある環境や人の現実をひもときながら、新しい豊かさの選び方を一緒に考えていきたいと思います。
サステナブルチョコレートとは何?
サステナブルチョコレートとは、環境・社会・経済の3つの側面に配慮して作られたチョコレートのことです。
一般的なチョコレートとの大きな違いは、カカオの栽培から製造、流通に至るまでのプロセスで、森林破壊や児童労働といった問題に配慮し、生産者が適正な収入を得られる仕組みを持っている点にあります。
「エシカル」や「フェアトレード」という言葉を聞いたことがある方も多いと思いますが、サステナブルチョコレートはこれらの概念を包括する、より広い視点を持っています。エシカル(倫理的)な選択としてのチョコレート、フェアトレード(公正な取引)によって作られたチョコレートは、いずれもサステナブルチョコレートの一部と言えるでしょう。
なぜ今、この言葉が注目されているのでしょうか。それは、私たちが日常的に楽しんでいるチョコレートの生産現場で、深刻な環境破壊や人権問題が起きていることが明らかになってきたからです。
なぜ”普通のチョコレート”が問題視されてきたの?
カカオ生産と環境問題の現実
カカオ生産は、主要な産地における森林消失の大きな要因となっています。西アフリカのコートジボワールとガーナでは、過去60年間で森林の80%以上が失われました。このうちの3分の1はカカオ栽培が原因とされており、特にコートジボワールでは不法な森林破壊の約70%がカカオ農園の開発に関連していると推定されています。
森林が失われることは、単に木がなくなるだけではありません。そこに住む野生動物や環境全体に連鎖的な悪影響を及ぼします。ゴリラやチンパンジーなどの霊長類が生息地の喪失によって絶滅の危機に瀕し、森林の消失は水サイクルの乱れや土壌の劣化を引き起こします。さらに、森林に蓄えられていた炭素が放出されるため、気候変動にも拍車をかけているのです。
また、生産性を高めるために農薬や肥料が頻繁に使用されていることも問題です。これらの化学物質は土壌や水を汚染し、授粉を助ける昆虫の減少を招くなど、生態系全体に悪影響を与えています。
労働環境・児童労働という見えにくい問題
環境破壊が進む根本的な理由の一つに、農家の極端な貧困があります。1970年代にはチョコレートバーの価値の50%が農家の収入となっていましたが、現在ではわずか6%にまで落ち込んでいます。農家は基本的な生活に必要な収入を得られていないケースが多く、生きるために耕作地を森林へと広げざるを得ない状況に追い込まれているのです。
西アフリカは世界のカカオの約75%を生産しており、特にコートジボワールとガーナの2カ国だけで世界供給の約60%を占めています。この地域では、児童労働が深刻な問題となっています。推定156万人もの子どもたちがカカオ農園で働いており、重い荷物の運搬、ナタの使用、農薬の散布といった、身体的に過酷で危険な作業を行っています。
こうした労働は、子どもたちが学校に通う機会を奪い、将来の可能性を制限することで、世代を超えた貧困の連鎖を生んでいます。
労働問題が解決しにくい最大の理由は、カカオの流通経路が極めて複雑で、透明性が欠如していることにあります。多くの企業が、自社製品に使用されているカカオの正確な産地を完全には把握できていません。多くの企業が採用する「マス・バランス方式」では、認証されたカカオと非認証のカカオが混合されるため、特定のチョコレートバーが児童労働によって作られたかどうかを消費者が判別することは困難なのです。
サステナブルチョコレートが生み出す変化とは?
農家の生活と社会環境の変化
サステナブルな取り組みの核心は、農家の「リビングインカム(最低限の生活に必要な所得)」の確保です。農家が正当な価格やプレミアムを受け取ることで、労働力として子供に頼る必要がなくなります。これにより、子どもたちが学校に通う機会が増え、世代間の貧困の連鎖を断ち切る変化が生まれます。
明治などの企業が行っている技術指導により、病害虫対策や適切な栽培技術が普及し、収穫量が30〜60%向上した例も報告されています。ジェンダー平等の促進や女性農家のエンパワーメント、医療・教育インフラへの投資を通じて、農村全体の生活の質が改善されているのです。
森林保護と生態系の回復
カカオ生産は森林破壊の大きな原因となってきましたが、サステナブルな手法への転換がその流れを変えています。アグロフォレストリー(農林複合経営)の導入により、カカオを他の樹木と一緒に育てることで、生物多様性の維持、土壌の健康回復、炭素の蓄積が可能になっています。
GPSマッピングやトレーサビリティの導入により、国立公園や保護区などの不法な場所で栽培されたカカオを排除し、既存の森林を守る体制が整いつつあります。オーガニック栽培や適切な農薬管理への移行により、土壌や水の汚染を防ぎ、授粉を助ける虫を守る変化も生じています。
サプライチェーンの透明化と構造改革
不透明だったカカオの流通経路が、テクノロジーと企業の責任感によって「見える化」されています。カカオがどこの農園で、どのような環境で育てられたかを完全に追跡するシステムが構築され、特にクラフトチョコレートメーカーなどの間では、中間業者を介さず農家から直接購入する手法が広がっています。市場価格の50〜300%高い価格が農家に支払われるケースもあるのです。
「チョコレート・スコアカード」などの外部評価により、企業の取り組みがランク付けされるようになり、透明性を欠く企業が市場で厳しく評価される文化が生まれています。
消費者の意識と選択の変化
レインフォレスト・アライアンスやフェアトレードなどの認証ラベル、あるいは企業の独自プログラムにより、消費者は自分の購入が環境破壊や児童労働に加担していないかを確認できるようになりました。サステナブルな農園では、発酵や乾燥などの工程も丁寧に行われる傾向があり、結果として高品質で風味豊かなチョコレートを楽しむ文化が育っています。
サステナブル=高いお金を払う必要がない
「サステナブルなものを選びたいけど、金銭的に厳しい」と感じている方も多いのではないでしょうか。私もそうでした。でも、サステナブルな選択は、高価な商品を買う必要はないんです。
チョコレートは嗜好品です。チョコレートを食べなくても生きていけるので、チョコレートを買わないという選択もできます。チョコレートではない食べ物で、おいしくてサステナブルな食べ物もたくさんあります。代用できる食べ物を探してみてもいいでしょう。
そして、お金にちょっと余裕があるときに、サステナブルなチョコレートを選んでみてください。「適正な価格」を支払うことで、罪悪感なくおいしいチョコレートを楽しめます。
私たちの選択が未来を変える理由
チョコレートは「嗜好品」だからこそ持つ力があります。必需品ではないからこそ、私たちは選ぶ自由を持っているのです。そして、その小さな選択が、遠く離れたカカオ農園の子どもたちの未来や、地球の森林を守ることにつながっている――そう考えると、日常の買い物が社会とつながる感覚を持てるようになります。
サステナブルチョコレートが示すのは、「新しい豊かさ」の形です。安さや便利さだけでなく、誰かの笑顔や地球の未来に思いを馳せながら選ぶこと。それは、少し手間がかかるかもしれませんが、確実に私たちの心を豊かにしてくれます。
今日からできる、ひとつのアクション
次にチョコレートを選ぶときに、パッケージをちょっと見てみてください。「フェアトレード」「レインフォレスト・アライアンス」「オーガニック」といったマークがあるか、企業がどんな取り組みをしているかを確認してみる。たったそれだけで十分です。
「知って、考えて、選ぶ」というシンプルな行動が、やがて大きな変化を生み出します。完璧じゃなくていい。あなたのペースで、できることから始めてみませんか。
まとめ
サステナブルチョコレートとは、環境・社会・経済の3つの側面に配慮して作られたチョコレートのことです。一般的なチョコレートの生産現場では、森林破壊や児童労働といった深刻な問題が起きていますが、サステナブルな取り組みによって、農家の生活改善、森林保護、サプライチェーンの透明化が進んでいます。
私たちの選択は、遠く離れたカカオ農園の未来を変える力を持っています。完璧じゃなくていい。次にチョコレートを選ぶときに、少しだけ意識してみる。その小さな一歩が、新しい豊かさへとつながっていくのです。








