気候変動の深刻化や地球環境の悪化を目の当たりにし、「何か環境のためにできることを始めたい」と考える人が増えています。しかし、実際に何から取り組めばよいのか迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。
そんな中、日常生活で手軽に実践できる環境配慮の方法として、プラントベースフードの導入が注目を集めています。食生活の見直しから始める環境アクションは、無理なく続けられる持続可能なライフスタイルの第一歩となるでしょう。
プラントベースフードとは
プラントベースフードとは、主に植物由来の原料から作られた食品のことを指します。野菜や果物、全粒穀物、ナッツ類、種子、豆類、植物油などが中心となった食事スタイルです。
厳格な食事制限というよりも、植物由来の食材を中心としながらも、場合によっては少量の動物性食品も含む柔軟なアプローチが特徴です。完全に動物性食品を排除するヴィーガンや、主に排除するベジタリアンとは異なり、より実践しやすい食事法として位置付けられています。
具体的な食材・食品の例
プラントベースフードの基本となるのは、果物や野菜、豆類(大豆、レンズ豆、ひよこ豆など)、ナッツ類、種子類、全粒穀物、ハーブ、スパイスといった自然の恵みそのものです。
できるだけ加工を最小限に抑えた、素材本来の形に近い状態で摂取することが推奨されています。また、近年では大豆や えんどう豆、小麦などの植物性タンパク質を使用して、肉の味わいや食感を再現した代替肉製品も数多く開発されています。
従来の完全植物食とは違い、時には少量の動物性食品を取り入れることも可能な柔軟性を持っているため、多くの人にとって取り組みやすい食事法となっています。
なぜ環境にやさしいのか
肉の大量生産が環境に与える影響
畜産業は地球環境に大きな負荷をかけている産業の一つです。すべての畜産業が地球環境に大きな負担を与えるとは言えませんが、大量生産をすることで環境への負担が大きくなっています。
牛などの動物を大量飼育をすると、飼料の生産に大豆などを大量に生産する必要があり、大量の水資源や土地が必要となります。資源の消費量や輸送にかかる二酸化炭素などを考えると、大豆をそのまま人間が食べれば、環境への負担は減らせることが一目で分かります。
また牛などの反芻動物はゲップからメタンガスが排出されているので、温室効果ガスの増加にもつながっていることも語られています。
大量の動物を飼育している施設の周りでは、動物の廃棄物による環境汚染も懸念されています。工場型畜産から出る大量の未処理のふん尿は、穴や貯留池に保管されますが、川や湖に流れ込み、水源を汚染することがあります。その結果、有害な藻類の異常繁殖が発生し、魚やその他の水生生物を死滅につながります。また、ふん尿貯留施設からの漏れや流出により、地域の飲料水として利用される地下水が汚染されます。
植物由来の食品が資源消費を減らす理由
植物由来の食品生産は、動物性食品と比較して必要な資源量が圧倒的に少なくて済みます。植物を直接食べることで、動物を通さない分だけエネルギー変換のロスがなくなり、効率的な栄養摂取が可能になります。
水の使用量についても、植物性食品の生産に必要な水の量は動物性食品の数分の一から数十分の一程度です。土地の利用効率も良く、同じ面積からより多くのカロリーやタンパク質を得ることができます。
カーボンフットプリント削減効果
植物中心の食事は、動物性食品を多く含む食事と比べて二酸化炭素排出量を大幅に削減できることが科学的に証明されています。動物を育てるための飼料の運送に使われる二酸化炭素排出量を考えると、プラントベースの食事は温室効果ガスの量が、明らかに少なくなるのが分かりますね。
車を使わないようにするのは、住んでいる場所によっては取り入れるのが難しいですが、肉などの動物性食品を食べる量を減らすのは、誰でも簡単にできるのもいいポイントです。
世界で広がっているプラントベースフード
欧米諸国では、環境意識の高まりと健康志向の浸透により、プラントベースフード市場が急速に成長しています。アメリカやヨーロッパの大手食品メーカーは、植物性代替食品の開発に積極的に投資し、スーパーマーケットの店頭には多種多様な商品が並んでいます。
レストランチェーンでも植物性メニューの充実が進み、消費者の選択肢が格段に広がっています。投資家からも注目を集め、フードテック分野への資金流入も増加傾向にあります。
日本での普及状況は?
日本においても、大手食品会社による植物性食品の商品開発が活発化しており、コンビニエンスストアや外食チェーンでも関連商品を目にする機会が増えました。
しかし、まだまだ商品の種類や入手しやすさの面で課題があり、価格面でも従来の食品と比べて割高感があることが普及の障壁となっています。また、日本の食文化に適合した味付けや調理法の開発も今後の重要な課題といえるでしょう。
プラントベースの食事を取り入れても大丈夫?健康への影響は?
環境面・健康面のメリット
植物中心の食事は環境負荷軽減だけでなく、健康面でも多くの利点があることが研究で示されています。
2024年の論文によると、植物性の食事は飽和脂肪やコレステロールが少なく、食物繊維や抗酸化物質、フィトケミカルが豊富であることが分かっています。こうした特徴は、心臓病などの心血管疾患のリスク低下、脂質バランスの改善、糖代謝の向上、血圧の安定、さらに2型糖尿病や一部のがんの発症予防につながると言われています。
ダイエットや栄養バランスにも利点があるとも言われています。こちらの2022年の論文によると、植物性の食事を取り入れている人は、一般的にBMI(体格指数)が低く、LDLコレステロール値も低く、慢性疾患のリスクも下がることが多いと報告されています。
またハーバード大学が出している記事によると、植物性の食事でも、健康に必要なタンパク質・脂質・炭水化物・ビタミン・ミネラルをしっかり摂ることができます。さらに、一般的な欧米型の食事よりも食物繊維を多く含む傾向があります。
栄養バランスや価格面での注意点
一方で、植物性食事を続ける際には注意すべき栄養素があります。
世界保健機関はプラントベースの食事を推奨しているものの、長期間のプラントベース食事の健康への影響に関する研究結果が少ないので、気を付けることを推奨しています。
特にビタミンB12は動物性食品に多く含まれるため、植物性食事では不足しやすく、神経系の問題や貧血、免疫機能の低下を招く恐れがあります。サプリメントや強化食品での補給が推奨されます。
亜鉛やヨウ素なども植物性食事では不足しがちなミネラルです。強化食品や必要に応じてサプリメントでの補完を考慮しましょう。
鉄分についても、植物性食品に含まれる非ヘム鉄は体内での吸収率が低いため、貧血のリスクがあります。ビタミンCを多く含む食品と一緒に摂取することで吸収を改善できます。
乳製品を控えることでカルシウムやビタミンDが不足し、骨密度の低下や骨折リスクが高まる可能性があります。強化された植物性ミルクやサプリメントの活用が有効です。
魚介類に豊富なオメガ3脂肪酸は、亜麻の種子やクルミ、チアシードなどに含まれる前駆体から体内で合成されますが、変換効率は低めです。藻類由来のサプリメントの検討も一つの選択肢です。
また、植物性であっても高度に加工された食品、例えば代替肉製品や揚げ物、甘い食品などは、過度な脂質や糖分、塩分を含む場合があり、逆に体に悪い食事につながってしまう可能性があります。できるだけ自然に近く加工されていない食品を優先することが大切です。
特定の疾患をお持ちの方、妊娠・授乳中の女性、子供、高齢者などは、厳格な植物性食事を始める前に医療従事者に相談することをお勧めされています。
取り入れ方のアイデア
1日1食から始めるプラントベース
いきなりすべての食事を植物性にする必要はありません。まずは1日のうち1食を植物性中心の内容に変えることから始めてみましょう。朝食をオートミールとフルーツにしたり、昼食を豆類やナッツを使ったサラダボウルにしたりするなど、無理のない範囲で取り組むことが継続の秘訣です。
慣れてきたら徐々に植物性食品の割合を増やしていけば、自然と環境にやさしい食生活が身についていくでしょう。
外食やコンビニでの選び方
外食時には、豆腐や野菜を使った和食メニューを選んだり、サラダやスープを追加したりすることで植物性食品の摂取を増やせます。コンビニでは、おにぎりの具材を梅や昆布にしたり、サラダや豆類の惣菜を選んだりすることも効果的です。
最近では植物性ミルクを使ったドリンクや、大豆ミートを使った商品も増えているので、そうした商品を積極的に試してみるのも良いでしょう。
さいごに
プラントベースの食事は、個人の健康促進と地球環境保護を同時に実現できる、まさに一石二鳥の食事法です。一人ひとりの小さな選択が積み重なることで、温室効果ガスの削減、水資源の保全、土地利用の最適化など、様々な環境問題の解決に寄与できます。
体調に気をつけながら、少しずつ取り入れてみてはどうでしょうか?技術の進歩により、今後さらに美味しく手軽なプラントベースフードが登場することが期待され、持続可能な社会の実現に向けた大きな力となるでしょう。
未来の地球と次世代のために、今日から始められる環境アクションとして、プラントベースフードを食生活に取り入れてみてください。