ジェーン・グドール博士に学ぶ、今日からできる小さな一歩──「Never give up!」を暮らしに活かすヒント

サステナブルな暮らしに関心があるけれど、何から始めればいいのか分からない。そんな悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。私自身も、環境問題の大きさに圧倒されて、自分の行動なんて意味があるのだろうかと感じることがあります。

そんなとき、いつも思い出すのがジェーン・グドール博士の言葉です。チンパンジー研究の第一人者として知られる彼女ですが、実は世界的な環境活動家でもあり、その活動の根底には「一人ひとりの小さな行動が世界を変える」という揺るぎない信念があります。

ジェーン・グドール博士とは?

ジェーン・グドール博士(出生名:Valerie Jane Morris-Goodall)は、1930年代にイギリスの中間層の家庭に生まれました。幼い頃から動物が大好きで、内向的な性格ながらも自然への強い関心を持っていた彼女は、母ヴァネから「Never give up!(決して諦めるな)」という言葉をかけられ続けて育ちました。

彼女が注目される理由は、正式な科学訓練を受けていないにもかかわらず、人類学者ルイス・リーキー博士の支援を受けて1960年にタンガニーカのゴンベでチンパンジーの長期研究を開始し、定説を覆す発見を成し遂げたことにあります。特に、チンパンジーが草の茎を使ってシロアリを釣る「道具使用」の行動と、肉を食べる行動を観察したことは、当時「人間だけが道具を使う」と考えられていた科学界に大きな衝撃を与えました。リーキー博士は「我々はヒトを再定義するか、道具を再定義するか、あるいはチンパンジーをヒトとして受け入れるかのどれかをしなければならない」とまで述べたのです。

さらに彼女は、1980年代半ばからは研究者という枠を超え、チンパンジーの生息地破壊や実験施設での劣悪な環境を目の当たりにして、保全活動と教育に力を入れる市民活動家へと転身しました。

行動につながる「名言」の力

グドール博士の言葉は、単なる知識ではなく行動を促すための指針です。彼女の代表的な名言をいくつかご紹介します。

「すべての個人が重要であり、一人ひとりが変化をもたらすことができる」
“Every individual matters, whether human or animal. Every individual can make a difference.”

これは、彼女の若者向けプログラム「ルーツ&シューツ(Roots & Shoots)」の基本理念です。人間であれ動物であれ、すべての命には価値があり、地球をより良い場所にするために、私たち一人ひとりの行動や選択が貢献できるというメッセージが込められています。

「冷酷な人間中心主義と残虐性を捨てれば、個人の行動が地球をより良い場所にする」
“If you renounce callous anthropocentrism and cruelty, your personal actions will make Earth a better place.”

彼女はチンパンジーを「番号」ではなく「デイビッド・グレイビアード」「フロ」といった名前で呼び、当時の科学界の慣習を破りました。これは、人間が他の動物や自然を支配する傲慢さを手放し、共感と尊重をもって接することの重要性を示しています。

日常に落とし込む「小さな一歩」

では、彼女の哲学を私たちの暮らしにどう活かせるのでしょうか。グドール博士自身が年間300日以上を旅に費やし、講演や募金活動を行う一方で、短時間でも集中して原稿を執筆していたように、忙しい日常の中でも「意識と集中力」を保つことが鍵になります。

買い物での意識

彼女が提唱する「マインドフル・イーティング」(意識的な食事)は、食材がどこで、どのように生産されたかを考えることから始まります。過剰消費を避け、可能な範囲で有機的で地元産の食べ物を選ぶこと。使い捨てプラスチックを減らすこと。これらは、彼女が指摘する「公害」と「過剰消費」という環境問題に直接つながる行動です。

観察ノートをつける

グドール博士は幼少期、鶏が卵を産む過程に興味を持ち、集中して観察していました。この「注意を払い、焦点を当てる」姿勢は、私たちにも応用できます。

短時間でも続けられる観察ノートの簡易フォーマットは以下の通りです。

  • 日付・時間・場所
  • 観察対象(個体名や特徴)
  • 行動の記述(感情を交えず、事実を記録)
  • 発見(なぜその行動が起こったのか、次に何を観察したいか)

身近な自然や動物、あるいは自分自身の消費行動を記録することで、新たな気づきが生まれます。

コミュニティで広げる

ジェーン・グドール博士は1991年に「ルーツ&シューツ」という若者向けのグローバルな環境・人道プログラムを作りました。ルーツ&シューツの根幹となる理念「すべての個人が重要であり、一人ひとりが変化をもたらすことができる」にもあるように、小さなアイデアをコミュニティに広げたことで、ルーツ&シューツは世界中で大きな成長を遂げました。

友人と「小さな一歩」の成功体験を共有したり、職場で使い捨てカップの廃止やリサイクルの徹底といった具体的なルールを提案したりすることも、組織レベルでの意識改善につながります。

「私にできることは?」に言い換える3ステップ

グドール博士の活動から学べる行動の手順は、次のように整理できます。

  1. 現状認識(何が問題か?)
    環境破壊や貧困、過剰消費といったグローバルな問題を認識する。
  2. 観察と共感(何に影響を与えているか?)
    チンパンジー個体への深い関心から始まったように、自分の身近な環境や、その影響を受けている生物・人々へ注意を払う。
  3. 小さな行動の選択(私に何ができるか?)
    ルーツ&シューツが動物、人々、環境の3分野でプロジェクトを推進するように、自分が関心を持った分野で「実際に機能し、すでに試行された」具体的な改善策を実行に移す。

希望を持ち続けること

グドール博士は現在も世界中を飛び回り、「希望の理由(Reason for Hope)」というメッセージを伝え続けています。彼女の活動を支えるのは、インスピレーションを受けた一般市民の行動です。

エシカル消費、教育・啓発活動への参加、動物福祉の支援――これらすべてが、私たちにもできる「小さな一歩」です。

「Never give up!」という母の言葉を胸に、障害を乗り越えてきたジェーン・グドール博士。彼女の物語は、個人的な情熱が世界を変える行動につながることを教えてくれます。まずは、明日の買い物から、少しだけ意識を向けてみませんか。一人ひとりの選択が、確実に未来を変えていくのですから。

出典:

Barnet, Andrea. 2018. Visionary Women: How Rachel Carson, Jane Jacobs, Jane Goodall, Alice Waters Changed Our World. New York: HarperCollins Publishers.

Goodall, Jane. 2010. Jane Goodall: 50 Years at Gombe. New York: Stewart, Tabori & Chang.

Peterson, Dale. 2008. Jane Goodall: The Woman Who Redefined Man. Boston: Houghton Mifflin.

Peterson, Dale, and Marc Bekoff, eds. 2015. The Jane Effect: Celebrating Jane Goodall. San Antonio, TX: Trinity University Press.

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