どう変わる?サーキュラーエコノミー時代の暮らしとビジネス

「つくって、使って、捨てる」時代は終わりつつあります。

いま、世界中で注目されているのがサーキュラーエコノミー(循環型経済)という新しい考え方です。資源を”ぐるり”と循環させることで、地球にも経済にも優しい社会をつくろうという動きが加速しています。

私自身、この言葉を初めて聞いたときは「リサイクルのこと?」と思っていました。でも調べてみると、それだけではない、もっと大きな仕組みの転換だとわかりました。

この記事では、サーキュラーエコノミーの考え方をわかりやすく解説し、私たちの暮らしやビジネスがどう変わるのかを一緒に探っていきたいと思います。

循環型経済とは?リニア経済との違いを簡単に

リニアエコノミー(線型経済)=「取る→作る→使う→捨てる」

これまで私たちが当たり前としてきたのが、リニアエコノミー(線型経済)です。

原材料を採掘または栽培し、製品に加工し、使用された後、最終的に廃棄される――この「取る→作る→使う→捨てる」という一方通行のプロセスが、長い間経済の基本でした。

でもこのモデルには大きな問題があります。資源を急速に消費し、天然資源の持続可能性を考慮しないため、長期的には社会全体に深刻なリスクをもたらしてしまうのです。

サーキュラーエコノミー(循環型経済)=「作る→使う→再利用・再生」

一方、サーキュラーエコノミー(循環型経済)は、材料が廃棄物になることがなく、自然が再生されるように設計された、より持続可能で耐久性のある生産・消費モデルです。

このモデルが目指しているのは、経済活動を有限な資源の消費から切り離すこと――つまりデカップリングです。製品や材料、資源の価値を可能な限り長く経済の中に維持し、廃棄物の発生を最小限に抑えることを目指しています。

考え方の根底にあるのは、自然の生態系です。自然界では、エネルギーだけが流れ、資源は循環します。生産プロセス全体を、この自然のサイクルに近づけようというのが、サーキュラーエコノミーの本質なのです。

なぜ今”循環”が求められているの?

循環型経済への移行が急務となっている理由は、主に3つあります。

1. 資源の有限性と枯渇の危機

現在、世界経済は地球の限られた天然資源に依存して拡大し続けています。人間の活動による資源利用は1900年以降10倍以上に急増しており、2030年までにはさらに倍増する軌道にあると言われています。

驚くべきことに、地球の生態学的フットプリントは1961年には地球1つ分未満でしたが、2005年には1.4地球分を超え、2030年頃には2地球分に達すると予測されています。現在の傾向が続けば、2050年までに地球が3つ必要になるという推定もあるのです。

2. 気候変動と温室効果ガスの増大

天然資源の抽出と加工は、世界の温室効果ガス(GHG)排出量全体の約半分を占めています――推定によっては70%に上るとも言われています。

特に注目すべきなのが「内在化された排出量」です。これは製品の製造と輸送によって発生する排出量のことで、地域の電力や交通など、他のすべての排出源の合計を上回る可能性が指摘されています。

つまり、私たちが「何を買うか」は、「何を運転するか」「どのように電気を使うか」よりも大きな環境影響を持つということです。

循環型経済戦略を実施することで、世界全体の排出量を最大39%(228億トン)削減できる可能性があると推定されています。

3. 大量の廃棄物と使い捨て社会の限界

リニアモデルでは、製品が短い期間で廃棄物となる構造になっており、この「廃棄物問題」そのものが大きな環境負荷となっています。

製品寿命の絶え間ない短縮によって材料の投入量が増大し、製品はほぼ確実に廃棄物となります。修理や再利用といった、資源と価値を保全する選択肢が限界的になっています。

サーキュラーエコノミーがもたらすメリット

企業にとってのメリット

コスト削減と新たな収益機会

サーキュラーエコノミーは、原材料の消費量を削減し、廃棄物処理費用を最小限に抑えることで、企業に大きなコスト削減をもたらします。

さらに注目すべきは、新しい循環型ビジネスモデルや収益機会を通じて、2030年までに世界全体で4.5兆ドルの追加的な経済効果を生み出す可能性があると推定されていることです。

具体的には、以下のような新しいビジネスモデルが生まれています:

  • 製品サービスシステム(Product-as-a-Service):企業が製品の所有権を保持し、サービス提供によって収益を得るモデル(レンタル、カーシェアリングなど)
  • 循環型サプライチェーン:材料や栄養素を継続的に循環させる仕組み
  • リカバリーとリサイクル:副産物を他の企業に再利用、リサイクル、再製造のために販売して収益を得る

サプライチェーンの安定性とリスク軽減

サーキュラーエコノミーは、企業を資源不足や原材料価格の変動から守ります。廃棄物を原材料として再利用することで、輸入品を含む新規原材料への依存度を減らし、資源の独立性を高めることができるのです。

雇用創出と社会的便益

製品の開発、再製造、改修といった分野で経済活動が刺激され、あらゆるスキルレベルの地域雇用の創出が期待されています。国際労働機関(ILO)は、サーキュラーエコノミー活動の実施により、2030年までに世界で600万人の追加雇用が創出される可能性があると予測しています。

消費者にとってのメリット

製品の長寿命化と修理の容易さ

サーキュラーエコノミーでは、製品がより耐久性があり、修理や分解、アップグレードが容易になるように設計されます。耐久性や修理可能性が高い製品は、交換品の購入費用を節約できるため、私たち消費者に直接的な利益をもたらします。

例えばフランスでは、製品の計画的陳腐化を防ぐための法律が制定され、保証期間の延長や修理サービスの提供が義務付けられています。

経済的な選択肢とアクセスの拡大

シェアリングプラットフォームやレンタルモデルの台頭により、私たちは製品を完全に所有する代わりに、必要な時にアクセスできるようになりました。これは過剰な消費の必要性を減らし、手頃な価格で製品を利用できる選択肢を広げてくれます。

健康と環境への貢献

サーキュラーエコノミーは、製品の再利用を妨げる有毒化学物質の使用を排除することを目指しています。これは私たち消費者の健康と安全を保護することにもつながります。

ファッション・食品業界の循環型モデルとは?

ファッション

ファッション・テキスタイル業界の従来のモデルは「取る、作る、廃棄する」というリニアモデルに依存してきました。特に「ファストファッション」企業による高い消費率によって、この線形システムの負の影響が増幅されています。

このモデルは、大量の衣類を埋立地や焼却処分場送りにし、人権リスクを含む社会的な悪影響をもたらしています。

サーキュラー・ファッション経済とは、衣類や繊維が継続的にリサイクルされ、可能な限り廃棄物にならずに経済に再投入される実践を指します。

主要な戦略

  1. 設計の変革と使い捨てからの脱却:修理、再利用、再販、リサイクルが可能な製品設計を最適化することが鍵となります。
  2. 汚染物質の排除と再生:懸念物質やマイクロファイバーの放出を段階的に廃止し、再生農業を採用してオーガニックコットンなどの天然繊維を生産します。
  3. 製品寿命の延長戦略(Re-X):修理(Repair)、再設計(Redesign)、再販(Resale)、リサイクル(Recycling)のために使用済みの衣類を顧客に持ち帰らせる回収システムが推進されています。

衣類レンタルサービスもEUや米国で注目されています。企業が製品の所有権を保持し、複数のクライアントに同じ製品を貸し出すことで、ユニットあたりの収益を増やし、生産量の増加を抑える「製品サービスシステム」の一種です。

企業事例

  • パタゴニア:顧客に対し、製品の修理と再利用を奨励する修理サービスやガイドを提供。Worn Wearプログラムでは、使用済みのギアを下取りに出したり、改修品を購入したりすることを奨励しています。
  • アイリーン・フィッシャー:顧客が着古した衣類を持ち込み、それを再製造・再販する「タイニー・ファクトリー」などの取り組みを実施。「ファッションの大きな問題は過剰消費だ。私たちは生産を減らし、販売を減らす必要がある」と明言しています。
  • AnotherADress:ファッションのサブスクを通じて、ファッション業界の循環型エコシステムを築いています。

関連記事:洋服を”持たない”という選択:ファッションサブスクで広がる新しい豊かさ

食品業界

食品業界におけるサーキュラーエコノミーの主要な焦点は、食品ロスと廃棄物を削減し、天然資源を再生する農法を導入することです。

食品関連の活動は、世界のエネルギー消費の30%、温室効果ガス排出量の最大29%を占めており、効率性の向上が必須となっています。

食品ロスと廃棄物の削減

食品ロスの削減は、サーキュラーエコノミーにおいて最も効果的なインパクト削減戦略の一つです。

米国環境保護庁(EPA)の「フードリカバリー・ヒエラルキー」は、廃棄物管理の優先順位を示しており、発生源削減が最も推奨され、次に飢餓に苦しむ人々への食糧寄付、動物への餌、産業利用(エネルギー回収など)、コンポストと続きます。埋立・焼却は最終手段とされています。

有機性廃棄物のコンポスト化は、食品の切れ端や植物に「新しい命」を与え、農場や自然コミュニティを豊かにする栄養豊富な土壌改良材に変えます。

サプライチェーンにおける循環性向上

  • 高度なパッケージングソリューション:活性パッケージングや可食コーティングなどの先進的な技術により賞味期限を延長し、流通・消費段階での食品ロスを削減できます。
  • シェアリングエコノミー:過去の販売データに基づいて発注を計画したり、近隣の事業者と食材の注文を分割したり、「不完全な」農産物を使用したりする工夫が行われています。
  • 製品設計による廃棄物削減:レストランで提供するメニューのポーションサイズを小さくし、必要に応じてリフィルを提供するオプションを設けることで、食べ残しを減らすことができます。

自然システムの再生

再生型農業(Regenerative Agriculture)は、土壌の健康を構築し、保水性を改善し、栄養分の流出を減らし、高いレベルの生物多様性を育む栽培方法です。農家は、合成肥料の代わりに、地元の資源から作られたコンポスト(堆肥)を利用するなど、栄養分管理を通じて自然生態系を再生しています。

関連記事:コンポストとは?種類別におすすめ商品を紹介!自作コンポストの作り方も

私たちが今日からできる「循環的な選択」

サーキュラーエコノミーと聞くと、企業や政府が取り組むべき大きな話に聞こえるかもしれません。でも実は、私たち一人ひとりの日常の選択が、この循環をつくる大きな力になるのです。

買う前に「借りる」「共有する」を考える

一時的にしか必要がないものは、購入するのではなく借りることを検討してみましょう。

服・家具・車などのシェアリングエコノミーを活用することで、所有する負担を減らしながら、必要なときに必要なものにアクセスできます。私自身、引っ越しの際にレンタルサービスを利用したことで、使わなくなった家具を処分する手間もコストも省くことができました。

長く使う・直して使う習慣をつける

まだ使えそうなものは、直して使いましょう。

最近、修理文化やリペアショップが見直されています。壊れたから捨てるのではなく、修理することで製品の寿命を延ばす――この小さな選択が、資源の循環につながります。

ごみを”資源”に変える意識を持つ

分別・リサイクル・コンポストの実践は、循環の基本です。

特にコンポストは、生ごみを土に還すことで、家庭でも小さな循環をつくることができます。ベランダでできる小型のコンポストもあるので、マンション暮らしの方でも始めやすくなっています。

まとめ|循環がつくる新しい豊かさ

サーキュラーエコノミーは、モノを減らすことではありません。価値を循環させることなのです。

個人・企業・社会がつながることで、持続可能で心地よい暮らしが生まれます。

「豊かさの再定義」――それが、これからの時代のキーワードです。

私たち一人ひとりの選択が、未来をつくります。今日から、小さな一歩を踏み出してみませんか?

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