最近、SNSやメディアで「サステナブルな食」「プラントベース」といった言葉をよく目にするようになりましたね。私自身も、スーパーで買い物をするときに「この食材は環境に優しいのかな?」と考えることが増えてきました。
でも、なぜ今、こんなにも「環境に優しい食べ物」が注目されているのでしょうか。その背景には、気候変動と私たちの食の選択が深く関わっているのです。
気候変動と食の関係
実は、私たちが毎日食べているものが、地球温暖化に大きく影響しています。食料システム全体は、人為的な世界の温室効果ガス排出量の約3分の1を占めているのです。
この排出量の中で最も大きな割合を占めるのが、農業と土地利用です。牛などの家畜の消化プロセスから発生するメタン、作物の生産に使われる肥料から発生する亜酸化窒素、そして農地の拡大のために森林が伐採されることによる二酸化炭素の放出など、食料を生産する過程で多くの温室効果ガスが排出されています。
さらに、食品ロスと食品廃棄も温室効果ガス排出の大きな原因となっており、世界の温室効果ガス排出量の8〜10%を占めると推定されています。私たちが食べ残したり、賞味期限切れで捨ててしまったりする食品が、実は地球温暖化に拍車をかけているのです。
一方で、気候変動は食料システムにも深刻な影響を与えています。温暖化、熱波、干ばつ、洪水、サイクロンといった極端な気象現象は、農作物の収穫量や家畜の生産性、漁業や養殖業に悪影響を与え、食料安全保障と栄養を脅かしています。気温の上昇や降水量の変化は、作物の収穫量を減少させるだけでなく、主要な穀物の栄養成分(タンパク質、必須ミネラル、ビタミンなど)をも低下させる可能性があります。
つまり、「食が気候変動を引き起こす」と同時に、「気候変動が食を脅かす」という悪循環が生まれているのです。
食の選択が環境に与える影響
私たちが毎日何を食べるかという選択は、想像以上に地球環境に大きな影響を与えています。
環境負荷の高い食べ物として知られているのが、動物性食品です。特に赤肉、乳製品、養殖エビは、最も高い温室効果ガス排出量と関連しています。畜産は、世界全体のカロリーの18%、タンパク質の37%しか供給していませんが、世界の農地の83%を使用し、食料関連の温室効果ガス排出量の58%に貢献しているのです。
具体的な数字を見ると、牛肉や羊肉のタンパク質1グラムを生産するために必要な土地は、豆や豆腐と比較して約100倍にもなります。また、牛肉1kgを生産するには約15,500リットルの水が必要ですが、米1kgでは1,670リットルに留まります。乳製品の生産は、世界のCO2排出量のうち年間17億トンに責任を負っているとされています。
特に、低炭水化物・高タンパク質の肉食中心の食事は、最も高い炭素排出量(1,000カロリーあたり約3kgのCO2)と関連していることが研究で示されています。
一方、環境負荷の低い食べ物としては、植物性食品が挙げられます。果物、野菜、全粒穀物、豆類、ナッツ、レンズ豆などの植物性食品は、一般的に動物性食品よりもエネルギー、土地、水の消費が少なく、温室効果ガス排出量が低くなっています。
ある研究では、ヴィーガン食は肉食中心の食事に比べて、温室効果ガス、水質汚染、土地利用を75%削減し、野生生物の破壊を66%、水の使用を54%削減することが示されています。また、肉や乳製品を少量含む、主に植物ベースの食事(例:地中海式ダイエット)に移行するだけでも、大幅な炭素削減効果が見込まれます。
エコな食生活がもたらすポジティブな変化
エコな食生活とは、国際連合食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が定義する「持続可能な健康的な食事(Sustainable Healthy Diets)」に含まれる概念であり、個人の健康と福祉、低い環境負荷、文化的受容性、経済的な公正さと手頃な価格をすべて促進する食事パターンです。
エコな食生活への移行は、いくつものポジティブな変化をもたらします。
環境への貢献としては、食事を主に植物ベースのパターンへシフトすることで、食料システムからの人為的な温室効果ガス排出量を大幅に削減できる可能性があります。健康的で持続可能な食事は、水や土地資源への圧力を軽減し、農業投入物(肥料や農薬)の削減を通じて、水域や大気汚染につながる富栄養化や酸性化のリスクを軽減します。また、生物多様性と生態系を保護し、食料システムの回復力を高めることにもつながります。
人類の健康と福祉への貢献も見逃せません。エコな食生活は、人間の健康にも良い影響をもたらします。例えば、「プラネタリーヘルス・ダイエット」を世界的に導入すれば、総死亡率を大きく減少させるなど、主要な健康上の利益をもたらすとされています。食事の改善は、世界中で5人に1人の死亡を防ぐ可能性があると推定されているのです。野菜、果物、全粒穀物、ナッツ、豆類を豊富に含む食生活は、心臓病、糖尿病、一部のがんなど、食事に関連する非感染性疾患のリスクを低減することが示されています。
社会的・経済的な利益としては、持続可能な食事が必ずしも高価であるとは限らないという点が挙げられます。主に植物ベースの食生活は、動物性食品の割合が少ないため、従来の健康的な食事の費用と比べてコストが高くなるわけではないという分析もあります。また、食料システムを持続可能で多様なものに転換することは、食料システムの回復力を高め、将来の気候変動や病害虫などのショックに備えることにもつながります。
「環境に優しい食べ物」が注目されている背景には、肥満、栄養不足、気候変動の三重のパンデミック(The Global Syndemic)に対処し、人類と地球の健康を同時に守るための「トリプルデューティ・アクション」(triple-duty actions)の一つとして、持続可能な食生活への移行が不可欠であるという国際的なコンセンサスがあるのです。
サステナブルな食生活を始めるにはどうすればいい?
ここまで読んで、「環境に優しい食生活に興味はあるけど、何から始めればいいの?」と思った方も多いのではないでしょうか。私も最初はそうでした。でも、実は難しく考える必要はありません。今日からできる具体的なアクションをご紹介します。
プラントベース中心の食事に変える
サステナブルな食生活の最も効果的な介入策は、植物ベースの食事への移行です。
まず、植物性食品の割合を増やすことから始めましょう。全粒穀物、豆類、ナッツ、野菜、果物といった植物性食品の摂取量を増やすことが重要です。これらは一般的に、動物性食品よりも温室効果ガス排出量が低く、土地や水の消費が少ないため、環境負荷が低いとされています。
「プラネタリーヘルス・ダイエット(Planetary Health Diet)」では、赤肉の摂取をゼロまたは少量に抑えることを推奨しています。もし完全な菜食(ヴィーガン)への移行が難しい場合は、フレキシタリアン(Flexitarian)食(主に植物ベースで、肉、魚介類、乳製品を少量含む食事)から始めるのも効果的です。
次に、動物性食品の摂取を管理・削減することも大切です。赤肉(牛肉、羊肉)や加工肉の消費を控えめにすることが強く推奨されています。これらの食品は、最も高い温室効果ガス排出量と関連しており、土地利用や水資源への影響が大きいためです。例えば、赤肉の消費量を週に一度程度に抑えるなど、具体的な目標を設定してみるのも良いでしょう。
乳製品や卵、鶏肉、魚介類は、適度な量であれば含めることができます。ただし、魚介類を選ぶ際は、持続可能な漁獲量からのものを選ぶことを推奨しています。
また、健康上の懸念のある食品を制限することも重要です。高度に加工された食品や飲料(ultra-processed foods)の摂取を制限します。これらは、環境への負担が大きいだけでなく、健康への悪影響も関連しています。添加された糖類や飽和脂肪、トランス脂肪の摂取を制限し、水分の摂取については、甘いドリンクではなく、安全で清潔な飲料水を第一の選択肢とすることが推奨されています。
地産地消や季節の食材を選ぶ
地元の旬の食品を積極的に選ぶことも、サステナブルな食生活の重要なポイントです。これにより、食品の輸送に伴う温室効果ガス排出量の削減(フードマイレージの削減)に貢献します。
私もスーパーではなく、地元の野菜が買えるオーガニック店やお店で、野菜を購入するようにしています。そこで手に入る地元の野菜は新鮮で美味しいだけでなく、生産者の顔が見えるという安心感もあります。
可能であれば、オーガニック(有機)の食品を選ぶことで、農薬や化学肥料の過剰使用を防ぎ、水質汚染や環境負荷の低減に貢献できます。また、包装材(パッケージング)も環境負荷の少ない素材を選ぶよう意識しましょう。量り売りやパッケージレスで買い物することで、プラスチックのゴミの量も減らせます。
フードロスを減らす買い方・食べ方
食品ロスと食品廃棄の削減は、サステナブルな食生活において最も人気があり、重要な行動の一つです。
家庭での廃棄を減らすことを最優先し、購入量を適切に管理したり、調理済みの食事を食べきったりします。冷蔵庫の中身を定期的にチェックして、使い切れる分だけ買うように心がけると、食品ロスを大幅に減らせます。
廃棄物を堆肥化(コンポスト)することで、有機廃棄物から放出されるメタンやCO2を減らすこともできます。自炊を増やすことも、有効的です。外食やテイクアウトに比べて、自分で料理をすることで、食材の使い方をコントロールでき、無駄を減らせます。
職場やイベントなどで食事を提供する際、植物ベースの食事をメインとして、動物性食品をオプションとする形式を採用することも、排出量削減と健康促進につながります。
今日からできる3つの小さな行動
「サステナブルな食生活」と聞くと、大きな変化が必要だと感じるかもしれません。でも、実は小さな一歩から始めることができます。私が実践している、今日からできる3つの行動をご紹介します。
マイバッグ・マイ容器を使う
プラスチックのパッケージやビニール袋の使用を減らすために、マイバッグやマイ容器を使うようにしましょう。
私はいつもエコバッグをバッグに忍ばせています。最近は、お惣菜を買うときにマイ容器を持参できるお店も増えてきました。最初は少し恥ずかしい気持ちもありましたが、店員さんも快く対応してくれますし、何よりゴミが減って気持ちがいいです。
オーガニックや地元の旬の食品を選ぶ
余裕がある人はオーガニックを選ぶと良いでしょう。ない場合は、生産地が近い場所の食品を選ぶだけでも十分です。
スーパーで野菜を選ぶとき、産地を確認する習慣をつけると、自然と地元の食材を選ぶようになります。旬の食材は価格も手頃で、栄養価も高いので、一石二鳥です。
一食だけ「プラントベース」を取り入れてみる
完全にヴィーガンになるのは難しいけれど、少し減らすことは簡単にできます。
私は肉や魚を食べた日の後には、プラントベースデーを取り入れています。プラントベースでもおいしく、満足できる食事を探してみると、意外と新しい発見があります。最近はレシピサイトやSNSでも、美味しいプラントベースレシピがたくさん紹介されているので、ぜひ挑戦してみてください。
最初は「ミートレスマンデー」や「プラントベースディナー」など、取り入れてみてもいいですね。
持続可能な食を選ぶことが”新しい豊かさ”になる理由
サステナブルな食生活を続けていくうちに、私は「豊かさ」の意味が変わってきたように感じています。それは、単に美味しいものを食べることだけではない、もっと深い満足感です。
自分と地球の関係を見直す
毎日する食事は地球へのインパクトも大きいものです。
以前の私は、食事を選ぶときに「美味しいか」「安いか」「便利か」だけを考えていました。でも今は、「この食材はどこから来たのか」「どうやって作られたのか」「環境にどんな影響があるのか」ということも考えるようになりました。
自分が満足することも大切だけど、地球や環境のことも考えられるようになりたい。そう思うようになったことで、食事がより意味のあるものになった気がします。
消費から「選択」へのシフト
ただ安いという理由で仕方なく購入するのではなく、環境への負担が少ないものを選択していきたいと思いました。
これは、受動的な「消費者」から、能動的な「選択者」への変化だと思います。過剰に加工され、栄養のない食事を離れて、加工されていない野菜や、加工が少ない食材を選ぶ。そうすることで、自分の健康と地球の健康の両方を大切にできるのです。
小さな選択が未来を変える
一人ひとりの小さな選択が大切です。
「私一人が変えたところで、何も変わらない」と思う気持ちも分かります。でも、少しでも変える人がいれば、いい方向に向かうと信じています。
私たちが今日選ぶ食事が、明日の未来を作る。そう考えると、毎日の食事がもっと大切なものに感じられませんか? サステナブルな食生活は、決して難しいものではありません。小さな一歩から、一緒に始めてみませんか?
参考資料:
Environmental-sustainability-in-national-food-base.pdf
FAO and WHO, Sustainable Healthy Diets – Guiding principles
Sustainable food systems and nutrition in the 21st century: a report from the 22nd annual Harvard Nutrition Obesity Symposium – PMC








