日本の便利な生活は24時間体制が当たり前だ。スーパーも薬局も年中無休で営業している。しかし、この便利さの裏には働く人々の厳しい現実がある。
日本企業の「おもてなし」は世界的に有名だ。その一方で、日本の労働者は深刻な過労に苦しみ、時には命を落とすほどの過酷な労働を強いられている。
そんな中、今年の元日に大手デパートが休業したというニュースを聞いて驚いた。たった1日の休業だったが、365日営業が当たり前の日本では大きな変化だ。これは、持続可能な労働環境への第一歩として注目を集めている。
現代は技術が進歩し、仕事の効率は格段に上がった。それなのに、私たちは依然として長時間労働を続け、十分な休暇を取れていない。この矛盾を解決することが、持続可能な労働環境を実現する鍵となる。
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日本人が働きすぎる理由
日本の経済発展は、労働者たちの懸命な努力の上に築かれた。高度経済成長期には、人々は一生懸命働くことに誇りを持っていた。
しかし今、経済は停滞し、状況は大きく変わった。現代の労働者は、十分な報酬もないまま長時間労働を強いられている。過労死という言葉が生まれるほど、命を落とす労働者も後を絶たない。
なぜ日本人はここまで働くのか。その理由は江戸時代からの「家制度」にある (橘 2017:136-144)。家への忠誠を示すため、人々は私利私欲を捨てて献身的に振る舞うことが求められていた。戦後、批判を受けたものの、この「滅私奉公」の精神は今も根強く残っている。
現代の日本企業は、かつての家制度に似た構造を持つ。社員には会社への完全な献身が求められ、残業は忠誠心の証となる。上司は会社に尽くす社員を評価し、昇進させる。そのため社員は、業務後の飲み会など、仕事に関連する活動にも多くの時間を費やさざるを得ない。
統計によると、日本の週平均労働時間は36時間から39時間だ (国際労働比較 2023)。年間の有給休暇取得日数は平均12日にとどまる(日本経済新聞 2024)。フランスやドイツでは年間27日から29日の有給休暇が当たり前だが、日本の労働者は休暇を減らしてでも会社のために働き続けなければならないというプレッシャーにさらされている。
職場における女性の闘い
日本はジェンダー平等において、ランクが低い。それは、日本企業で管理職に昇進できる女性は極めて少ないからだ。特に子育て中の女性は、高い能力や学歴があっても、キャリアの壁に直面する。
女性は子供を持つまでは男性と同じキャリアを歩める。しかし出産を機に「マザー・トラック」と呼ばれる別のキャリアコースに移される。これにより、男性社員や子供のいない女性社員とは異なる待遇を受けることになる (橘 2017:41-42)。
日本企業は社員に完全な献身を求める。そのため、子育てをしながら働く母親は会社の期待に応えにくい。男性管理職はこの状況に対し、一見思いやりのある対応として、母親に柔軟な勤務形態を提供する。しかしこの「配慮」を受けた途端、母親たちは重要度の低い業務を任されるようになり、昇進の機会を失っていく。
一方で男性も、昇進のために長時間労働を強いられ、家事や育児に関わる時間が持てない。これからのサステナブルな働き方を実現するには、誰もが不利益を被ることなく、仕事と育児の両方に十分な時間を使える環境づくりが必要だ。
持続可能な仕事の未来に向けて
今年の元日、一部の百貨店が初めて休業に踏み切った。その背景には深刻な労働力不足がある。人口減少が進む中、企業は新しい働き手の確保に苦心している。労働者を引き付けるには、労働条件の改善が不可欠だ。
1930年、経済学者のケインズは興味深い予測をした。技術の進歩により、2030年には週15時間の労働で生活が成り立つようになるというものだ。しかし予測の期限まで残り5年となった今も、私たちは週30時間から40時間も働いている。
給料をもらう仕事以外にも、私たちは毎日様々な無給の労働をしている。掃除、料理、家族の世話など、これらも確かな労働だ。
このような状況を踏まえると、これからの働き方をどう設計すべきか。週何時間の労働が適切なのか。真剣に考えるべき時期に来ている。
労働と娯楽のバランス
日本語で「仕事」というと、給料が発生する労働のことを指す。そのため、育児や介護など、主に女性が担う無償労働は「仕事」として認識されにくい。
一方、英語の「work」はより広い意味を持つ。運動することを「work out」と言ったり、人間関係の改善することを「work on relationships」と表現する。では、何を仕事とし、何を仕事としないのか。その境界線はどこにあるのだろうか。
仕事や労働は苦痛を伴う意味があると考えられるが、仕事を楽しんでいる人もいる。必ずしも苦痛を伴うものではない。
労働とは「社会に客観的な価値をもたらす活動」と定義すると分かりやすい (Cholbi 2022)。労働をする時、私たちは他者や社会への貢献を意識している。子育てや介護も、他者を助けることが目的であれば労働となる。運動でさえ、自分から社会でどのように見られているかにフォーカスしていれば、労働と言える。
対して娯楽は「個人的な喜びのための活動」だ。スポーツ、料理、読書など、純粋に自分の楽しみのためだけに行う。労働は他人に代わりに仕事をしてもらっても同じ価値を生み出せるが、娯楽は他人に代わりにしてもらっては意味がない。自分自身でする必要がある活動だ。
幸運なことに、労働と娯楽は両立できる。給料をもらいながら、自分が娯楽だと感じる活動をすることもできる。無償の家事や育児も、料理を作るプロセスを純粋に楽しんだり、子供と過ごす時間に喜びを感じることができれば、娯楽となる。
ただし現実には、多くの仕事は純粋な労働として捉えられる。会社は常に結果を求め、私たちは社会的価値の創出に集中せざるを得ない。経済的な理由で、好きではない仕事を続けることも多い。家事や介護も、他者のためという意識が強くなれば負担に感じやすい。
好きな娯楽も、社会的な価値を意識し始めると労働のように感じられる。例えば、楽しいから読書をすれば娯楽となり、テストのために読書をしなければいけないのなら労働になる。
社会への貢献は確かに大切だ。しかし、同じくらい自分のための娯楽の時間も必要だと思う。
社会や他人への貢献をすることが善とされる日本で、自分のための娯楽の時間を作るのが難しいかもしれない。私は労働の時間と同じくらい娯楽の時間が確保できるといいと思う。欲を言えば、娯楽の時間が労働の時間を上回ることが望ましい。大切なのは、娯楽として楽しみながら、労働としての価値を生むこともできることだ。
あなたの理想の労働と娯楽のバランスは?
参考資料
President Online, https://president.jp/articles/-/88930
Michael Cholbi 2022, Philosophical Approaches to Work and Labor, https://plato.stanford.edu/entries/work-labor/
橘玲. 2017. 専業主婦は2億円損をする. マガジンハウス.
World Population Review, Average Workweek by Country 2024,
https://worldpopulationreview.com/country-rankings/average-work-week-by-country
国際労働比較2023, https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2023/06/d2023_6T-02.pdf