ブラックフライデーのセール情報が街中に溢れるこの時期、皆さんは「グリーンフライデー」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。私自身、数年前に初めてこの言葉に出会ったとき、「買わないことが、こんなにも前向きな選択になるのか」と驚いたことを覚えています。
グリーンフライデーは、ブラックフライデーと同じ日に開催される、環境に配慮した取り組みです。その目的は、衝動買いを減らし、私たちの買い物習慣が環境に与える影響について意識を高めること。単なる「消費の自粛」ではなく、より意識的で持続可能な買い物を促し、環境と社会に対する責任を優先する企業を支援する、世界的なムーブメントなのです。
ブラックフライデーへのカウンターカルチャーとして誕生
グリーンフライデーは、ブラックフライデーの狂乱的な消費主義と環境への悪影響に対抗する運動として誕生しました。そのルーツは1992年、カナダで始まった「Buy Nothing Day(何も買わない日)」にまで遡ります。これは、過剰な消費主義に抗議し、持続可能なライフスタイルを奨励するために、感謝祭の翌日に買い物を控えるよう人々に呼びかけるイベントでした。そして2015年、この精神を受け継ぐ形で、グリーンフライデーが本格的に形作られたのです。
なぜこのような運動が必要だったのでしょうか。実は、ブラックフライデーには見過ごせない環境負荷があります。
魅力的な割引は衝動買いにつながり、本当に必要ではないものまで購入してしまう。その結果、ブラックフライデーで購入された商品の約80%が、短い使用期間の後に埋立地や焼却処分場に送られると報告されています。さらに深刻なのは、オンライン注文の配送による環境負荷です。配送は世界の炭素排出量の最大4%を占めており、特にブラックフライデーとクリスマスシーズンに急増します。2020年の英国では、ブラックフライデーの宅配便だけで429,000MTの温室効果ガスを排出したと推定されました。
グリーンフライデーは、このような「モノを使い捨てる文化」から、持続可能性、長寿、倫理的な生産を重視する文化への移行を提唱しています。
“買わない”という新しいアクションの意味
「買わない」と聞くと、何だか我慢を強いられているような気がするかもしれません。でも、グリーンフライデーが提案する”買わない”は、そういった消極的なものではありません。
この選択には、いくつかの重要な意味があります。まず、過剰消費への抗議。衝動的な消費主義に対して「ノー」と言う強力な声明となります。次に、廃棄物の削減。セールを避けることは、不必要なものを購入し、最終的にそれらを埋立地に送ることを防ぐ最もシンプルな方法です。
そして私が最も共感するのは、価値の再認識という側面です。目の前の取引の短期的な高揚感よりも、長期的な価値を優先する。その時間とエネルギーを、別のポジティブな活動に費やすことを奨励する考え方なのです。
例えば、グリーンフライデーには「外に出て自然を楽しむ」「友人と家族と時間を過ごす」「価値ある大義に投資したり、分かち合ったりする」といった活動が推奨されています。買い物に追われる時間を、本当に自分を豊かにしてくれる体験に置き換える。これこそが、グリーンフライデーの本質なのです。
消費を減らすことで得られる心理的な豊かさ
実際に、グリーンフライデーの理念に沿って行動すると、心理的な豊かさが得られることが分かっています。
まず、ストレスの軽減。ブラックフライデーのような混乱や、割引をめぐって競争するストレスから解放されます。屋外に出て自然の中で過ごすことは、ストレス解消になります。
次に、充実感が得られます。物質主義ではない幸福を優先し、「与える」ことや「未来に投資する」ことに焦点を当てることで、より満たされた感覚が得られます。節約したお金を寄付したり、周りの人のために使えるようになると、満足度が高まるでしょう。
そして何より、感謝と満足の精神を育むことができます。買い物に追い立てられる代わりに、愛する人とのつながりや、すでに持っているものの価値を認識する。これは、私たちが人生をどう生きたいか、という根本的な問いへの答えでもあります。
価格の安さよりも「価値」で選ぶ
ブラックフライデーが価格の安さを追求するのに対し、グリーンフライデーは製品の真の価値と持続性に焦点を当てます。
実は、ブラックフライデーの「安さ」は、必ずしもお得ではありません。2022年の調査では、平均の割引率はわずか4%で、製品の56%はブラックフライデー当日よりも11月中の別の日に安価だったと報告されています。つまり、「安い」という理由だけで購入することは、環境を犠牲にするか、本当に必要のないものを買う誘惑につながるのです。
グリーンフライデーは、「より少なく買い、より良く買う(buying less and buying better)」という考え方に根ざしています。イギリス王室のチャールズ国王(当時チャールズ皇太子)の「買うのは一度で、良いものを買う(Buy once, buy well)」というモットーは、持続可能な買い物の良い方法として支持されています。
この哲学は、短期的な欲望よりも永続的な価値を優先し、所有よりも目的を重視することを呼びかけています。
ブランド側も”セールしない”選択をする理由
興味深いのは、グリーンフライデーの理念を支持するブランドが増えていることです。単に割引を提供しないだけでなく、過剰消費を促さないという倫理的な姿勢を示すことで、ブランドの評判と顧客との信頼関係を強化しています。
例えば、持続可能なファッションブランドであるEcoalfは、2009年の立ち上げ以来、セールやプロモーションに一貫して反対しています。このブランドの製品価格は、2億5千万本以上のペットボトルから500種類以上のリサイクル生地を作るという広範な研究と革新プロセスの真の価値を反映しているからです。
また、ほかの企業はセールを避ける代わりに、環境への取り組みを強調したり、代替行動を奨励したりしています。
パタゴニアは2016年にブラックフライデーの売上金の100%を環境団体に寄付しました。米国の小売業者REIはブラックフライデーに店舗を閉め、従業員と顧客に「#OptOutside(外に出よう)」キャンペーンを通じて屋外で一日を過ごすよう奨励しました。IKEAはグリーンフライデーのキャンペーンとして中古家具の買い取りを促進し、循環型消費を推進しています。
これらの企業は、グリーンフライデーを自社のCSR(企業の社会的責任)へのコミットメントや、持続可能な開発に取り組む姿勢を伝える機会として活用しているのです。
日本でも始まっている”買わない運動”
日本でも、グリーンフライデーの理念に共感する動きが広がっています。
メルカリは2020年より「グリーンフライデー」の取り組みを実施しており、特に衣類廃棄問題の解決を目指しています。2024年には東急プラザ原宿「ハラカド」で、新作ゼロのサステナブルファッションショーや物々交換ブース「Bring One Get One Free」を開催。合計285名が参加し、678着の衣類が新しい持ち主の手に渡りました。
メルカリの公式サイトはこちらシェアリングエコノミー協会と15社のシェアリングサービス事業者は、「GO GREEN プロジェクト」を3年連続で実施。ブラックフライデー期間中に各社のサービスロゴをグリーンに変更し、シェアリングという新しい消費のあり方を提案しています。
また、Kuradashiはフードロス削減を目的としたキャンペーンを実施し、割引クーポン利用1回につき50円を環境保護団体へ寄付。Back Marketはリファービッシュ品(整備済製品)の利用を推奨し、電子廃棄物やCO2の削減に貢献しています。
半額以下商品多数!おトクな買い物で社会貢献【Kuradashi】私たちができるグリーンフライデーの過ごし方
では、私たち一人ひとりは、グリーンフライデーをどう過ごせばいいのでしょうか。
自然の中で活動する: デバイスを置いて、森、公園、山、近くの湖など、自然の中に出かけましょう。ハイキング、ジョギング、サイクリングなど、体を動かすのもおすすめです。スウェーデン発祥の「プロギング」(ジョギングしながらゴミを拾う)を試してみるのも良いでしょう。
人との繋がりを大切にする: 愛する人たちともっと多くの時間を過ごす。持続可能な料理を用意した「グリーン」をテーマにしたイベントを開いたり、友人や家族と衣類を交換したりするのも素敵です。
慈善活動や自己投資を行う: ボランティア活動や環境保護などの社会貢献活動、お気に入りのチャリティへの寄付もできます。絵を描く、新しいレシピを作る、楽器を演奏するなど、創造的な時間に充てたり、環境に関する書籍やドキュメンタリーで学んだりするのも有意義です。瞑想、ヨガなど、心と体の健康への投資も推奨されています。
もし何かを買う必要がある場合は、「長く使えるもの」を選びましょう。購入前に本当に必要かを考える時間を取り、買い物リストを作成してリストにあるものだけを購入する。質の高い製品に投資し、エコフレンドリーなブランドや持続可能な調達を行う企業から購入する。中古品やヴィンテージ品を選んだり、今持っているものを修理したりして、製品の寿命を延ばすことも大切です。
そして、SNSでメッセージをシェアすることも、運動を広げる一歩になります。#GreenFridayのハッシュタグで、グリーンフライデーの価値観や、小売業者が持続可能な消費を推進するために行っている取り組みを共有しましょう。あなたのシンプルな行動が、より良い世界を作るきっかけとなるかもしれません。
豊かさを”消費”ではなく”選択”で感じる
買わないことで広がる余白と時間。それは、自分自身と向き合い、本当に大切なものを見つめ直す機会になります。
私たちは長い間、「持つこと」が豊かさの証だと信じてきました。でも今、”持たない豊かさ”という価値観が世界中で広がっています。グリーンフライデーは、単に「買わない日」ではなく、「自分にとっての豊かさ」を見つめ直す日なのです。
ものを減らすことが、心を満たす第一歩になるかもしれません。この11月、一緒に新しい豊かさの形を探してみませんか。








