旅行サイトを開けば、「サステナブルな旅」という言葉があちこちに並んでいます。自然の中に建つ宿、地域と結びついた体験、環境への配慮を謳うツアー。どれも魅力的に見えますが、ふと気になることがあります。その「サステナブル」は、どこから来ている言葉なのでしょうか。
誰でも使える言葉には、根拠があるものと、印象だけのものが混在しています。この記事では、旅行先・宿泊・体験のそれぞれについて、国際的な基準と認証の視点から「選ぶための手がかり」を整理します。
「サステナブルな旅行先」とは何か
旅行先の持続可能性について、現在もっとも広く参照されている国際基準が、GSTC(世界持続可能観光協議会) のデスティネーション基準です。
GSTCは、観光地の持続可能性を4つの柱で評価しています。
持続可能な管理。 ガバナンス体制が整っているか。長期的な戦略があるか。地域のステークホルダーが意思決定に関与しているか。
社会経済的影響。 観光の恩恵が地域に残るか。雇用の機会は公平か。地元産品が適切に評価されているか。
文化的影響。 文化遺産や無形遺産が守られているか。観光によって地域固有のものが失われていないか。
環境的影響。 エネルギー・廃棄物・水の管理が行われているか。生物多様性は保全されているか。気候変動への対応があるか。
ここで注目したいのは、「環境保護だけが基準ではない」という点です。地域雇用の質、文化の継承、公正な経済還元。これらすべてが持続可能性の構成要素として位置づけられています。
UN Tourism(旧UNWTO)も、持続可能な観光を「現在と将来の経済・社会・環境への影響を考慮し、訪問者・産業・環境・地域社会それぞれのニーズに対応する観光」と定義しています。
また、GSTCの基準では 訪問者管理 も重要な指標です。観光客の数を分散・制限し、地域社会や自然環境への過剰な負荷を防ぐ仕組みが整っているかどうか。それも評価の対象に含まれています。
信頼できる旅行先リストはあるか
「どこに行けばいいのか」と思うとき、参照できる公式なリストやインデックスがあります。
GDS-Index(Global Destination Sustainability Index) は、観光地を社会・環境・サプライヤー・管理体制の4軸で評価するベンチマーク指標です。2025年版ではヘルシンキが2年連続で1位を獲得しました。2024年報告によれば、同市内の50室以上のホテルの99%、すべてのコンベンションセンター、主要アトラクションの80%が第三者認証を取得しており、その数字がヘルシンキの評価を支えています。
Green Destinations Top 100 は、30のコア基準と「グッドプラクティス・ストーリー」の提出審査によって選出される年次リストで、2014年から続いています。このプログラムが評価するのは「完全に持続可能な観光地」ではありません。持続可能性に向けた具体的な取り組みと、その積み重ねを認めるものです。
ただし、どちらも政府の旅行安全情報ではなく、業界ベンチマークと認識の枠組みです。「ランクが高い=何も問題がない」ではなく、「継続的な改善の努力が確認できる」という意味合いで活用するのが適切でしょう。
宿泊施設をどう選ぶか 認証ラベルを読み解く
「エコな宿」「自然に優しいホテル」という表現は、どこでも自由に使える言葉です。信頼性の根拠になるのは、第三者機関による審査と定期的な監査を伴う認証制度です。
主要な認証を3つ紹介します。
Green Key
世界60カ国以上で運用されている認証制度です。水・エネルギー・廃棄物・化学物質の管理、スタッフへの環境教育などが評価されます。「必須基準(Imperative)」と「ガイドライン基準」の2層構造になっており、現場監査が定期的に行われます。たとえばシャワーの流量制限(毎分9リットル以下)やデュアルフラッシュトイレの導入なども必須基準のひとつです。一度取得すれば終わりではなく、継続的な改善を前提とした仕組みになっています。
関連記事:旅行者の新常識:グリーンキー認証ホテルを選ぶ理由とメリットとは?
EarthCheck
科学的ベンチマークを軸にした認証・評価プログラムです。温室効果ガス排出・エネルギー・淡水・生態系・大気質・廃水・固形廃棄物など、10の主要領域を対象として毎年の定量的な追跡と監査が行われます。GSTCに承認された認証機関でもあり、気候変動対策やリスク管理の評価に強みを持っています。
B Corp
宿泊施設単体ではなく、企業全体を評価する認証です。ガバナンス・労働者・地域・環境・顧客の5領域において、B Lab独自のアセスメントで80点以上を取得することが求められます。利益だけでなく、すべてのステークホルダーへの責任を法的にも約束する仕組みで、2025年からはさらに厳格な基準へと移行しています。
認証を実際に確認する方法
「認証を取得しています」という一言だけでは、有効かどうかはわかりません。GSTCの公式ディレクトリや、各認証団体(Green Key・EarthCheck)のウェブサイトで施設名を直接検索することができます。Googleトラベルも、Travalyst連合の基準を満たす第三者認証を持つ施設に「エコ認定」ラベルを表示しています。
体験・アクティビティの選び方 「再生型観光」という考え方
旅先でどんな体験をするか、どんなツアーに参加するか。それも、旅の持続可能性に直接つながる選択です。
エコツーリズムの国際基準を整備するTIES(国際エコツーリズム協会)は、その原則として「物理的・社会的・心理的影響の最小化」「保全への直接的な資金提供」「地元住民と産業への経済的還元」「教育的な体験の提供」などを挙げています。
近年注目を集めているのが、再生型観光(Regenerative Tourism) という概念です。「影響を減らす」にとどまらず、「訪れる前よりも良い状態にして去る」ことを目指します。環境再生プロジェクトへの参加や、地産地消を徹底した体験型の食の活動などが、その具体的なかたちとして挙げられています。
野生動物と関わるアクティビティには、特に慎重な判断が必要です。WWFは野生動物観察ツアーに科学的根拠に基づくガイドラインを設けており、観察ボートは一度に最大3隻まで、動物との距離・騒音・速度の管理を定めています。こうした設計がされているかどうかが、ツアーを選ぶ際のひとつの判断材料になります。IUCNも保護地域での観光について、許容可能な影響レベルの設定とゾーニングによる訪問者管理を推奨しています。
コミュニティベースの観光も、重要な選択肢のひとつです。支払った料金が地元経済に還元されているか、地域の人々が実際に関与しているか。その設計を確かめることが、体験の意味を左右します。
グリーンウォッシングを見抜く 問うべき4つのこと
EUの市場調査によれば、企業の環境関連の主張の42%が、修正またはさらなる調査が必要と判断されました。旅行業界も例外ではありません。
よく見られるパターンが3つあります。
曖昧な用語の使用:「サステナブル」「自然と共存」「環境配慮型」といった言葉は、定義がなければ何も語っていないに等しい表現です。
自社製バッジ: ロゴやアイコンがあっても、第三者機関の審査を経ていなければ、自己申告と変わりません。
目標を実績に見せる表現:「将来の目標」と「現在達成されている事実」は、まったく別のことです。ある航空会社が「将来の保護」というスローガンを広告に用い、将来の希望的観測を現在の実績のように見せているとして、広告基準局から禁止された事例もあります。
宿泊施設やツアーオペレーターに確認したい、具体的な問いが4つあります。
- 認証団体の名前は何か。GSTCに認定された機関か。
- 再生可能エネルギーの比率は何パーセントか。
- 地元スタッフの割合はどのくらいか。管理職に地元の人はいるか。
- 監査済みのデータや第三者レポートは開示されているか。
EUでは「グリーン・クレーム指令(GCD)」の施行が進められており、2026年以降、独立した認証に基づかない環境主張はEU加盟国で違法になる可能性があります。透明性を求める制度的な動きは、着実に前進しています。
旅の問いは、続く
基準が整備されつつあるということは、「何を根拠に選ぶか」を問うことが、以前より具体的にできるようになったということでもあります。
認証を確認すること、ランキングを参照すること、体験の設計に目を向けること。それは旅を窮屈にするためではなく、旅の意味を自分で考えるための手がかりです。
どんな場所に、どんな形で、どんな関係性で関わるのか。その問いを持ち続けることが、旅そのものを少しずつ変えていくかもしれません。
参照:GSTC Destination Criteria v2.0 / UN Tourism Sustainable Tourism / GDS-Index 2025 / Green Destinations Top 100 / Green Key Global / EarthCheck / B Lab / TIES Ecotourism Principles / WWF Wildlife Travel / IUCN Protected Area Management Guidelines / EU Green Claims Directive








