脱成長とは?わかりやすく解説|意味・背景・暮らしとの関係まで

「経済成長しないと、生活が苦しくなるんじゃないの?」 そう思う方も多いかもしれません。でも実は、いま世界中で「脱成長」という新しい考え方が注目されています。

脱成長とは、単に経済が縮小することではありません。むしろ「本当の豊かさとは何か」を問い直し、環境にも人にも優しい社会を目指す考え方なんです。

この記事では、脱成長の基本的な意味から、私たちの暮らしとの関係まで、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。

脱成長とは何か(基本の意味)

脱成長の定義

脱成長とは、持続可能で公正な社会を目指し、経済の規模を自発的かつ公平に縮小させるという考え方です。

ここで大切なのは、単にGDP(国内総生産)の数値が下がることではなく、「生産と消費を民主的に削減する」というプロセスを重視している点です。つまり、みんなで話し合いながら、計画的に経済のあり方を変えていこうという提案なんです。

1972年にフランスの思想家アンドレ・ゴルツが初めて「décroissance(デクロワッサンス)」という言葉を使い、その後セルジュ・ラトゥーシュらの活動を通じて世界に広まりました。現在は特にスペイン、フランス、イタリアなどの研究者によって議論が深められています。

不景気や経済縮小との違い

「経済が縮小するなら、不景気と同じでは?」と思われるかもしれません。でも、ここには決定的な違いがあります。

不景気(リセッション)は、成長を前提とした経済が成長できずに崩壊する、無秩序で悲劇的な状態です。企業の倒産や失業が増え、人々の生活が混乱します。

一方、脱成長は「成長を前提としないシステムへと、計画的かつ民主的に移行するプロセス」です。研究者たちはこれを「災害(ディザスター)としての縮小ではなく、設計(デザイン)による減速」と表現しています。

なぜ今、脱成長が注目されているのか

有限な地球と経済成長の限界

私たちが住む地球は有限です。資源には限りがあり、自然が回復できる速度にも限界があります。

研究者たちの共通認識として、「資源に制約のある惑星において、経済成長を無限に持続させることはできない」という点があります。気候変動、資源枯渇、生物多様性の喪失といった環境問題は、人類が安全に活動できる「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」を既に超えていることを示しています。

金融危機と幸福度の停滞

2008年の世界金融危機は、世界経済の代替的な発展の軌道に関する研究を促すきっかけになりました。この危機は「成長への依存」がもたらしたシステム上の失敗であると認識されています。

さらに興味深いのは、高所得国では所得のさらなる増加が幸福度の向上に寄与する度合いが非常に限定的だという研究結果です。例えば米国では、継続的な経済成長にもかかわらず「非常に幸せ」と答える人の割合は1972年以降ほぼ横ばいです。

「もっと稼いで、もっと買えば幸せになれる」という考え方に、疑問符がついているんです。

脱成長の考え方の核心

「少なくする」ではなく「より豊かに生きる」

脱成長というと「我慢の生活」を想像するかもしれませんが、実際は逆です。

この考え方の核心は、Less(少なく)ではなくMore(より豊か)にあります。物質的な所有を減らす代わりに、コミュニティの発展、人間関係、自由な時間、ケア(介護や育児など)といった本当に価値のあるものを豊かにし、生活の質を向上させることを目指しています。

「8つのR」とは

脱成長を実践するための指針として、セルジュ・ラトゥーシュが提唱した「8つのR」という考え方があります:

  • 再評価(re-evaluate): 何が本当に大切かを見直す
  • 再概念化(reconceptualize): 豊かさの意味を問い直す
  • 再構築(restructure): 社会の仕組みを作り変える
  • 再分配(redistribute): 富を公平に分け合う
  • 再局地化(relocalize): 地産地消を進める
  • 削減(reduce): 不要な生産・消費を減らす
  • 再利用(re-use): 物を繰り返し使う
  • リサイクル(recycle): 資源を循環させる

これらは互いに関連し合い、経済中心の社会から生活中心の社会へと移行するための道筋を示しています。

経済成長との根本的な違い

交換価値 vs 使用価値

従来の経済成長は、「交換価値」つまり「いくらで売れるか」を重視します。資本主義では、利益を生み出すことが最優先で、その利益をさらに再投資して拡大し続けることが求められます。

一方、脱成長の文脈における草の根の取り組みなどは、利益ではなく「使用価値」、つまり「人間のニーズを満たすこと」「生活にどう役立つか」を重視します。

この違いは小さく見えますが、社会のあり方を根本から変える大きな転換点になります。

資源とエネルギーの計画的な削減

脱成長は、経済を地球の生命維持システムとバランスさせるため、高所得国におけるエネルギーや資源の投入量を計画的に削減し、人々のウェルビーイングを確保しながら社会システム全体を再編成するプロセスです。

これは単なる省エネではなく、社会システム全体の設計を変えていくアプローチです。

脱成長と似ている考え方との違い

グリーン成長との違い

「技術革新で環境問題を解決しながら、経済成長も続けられる」というのがグリーン成長の考え方です。具体的には、GDPを成長させながら、炭素排出、物質フロー、生物多様性の損失を削減しようとする熱望を指します。

しかし脱成長の立場からは、この「絶対的デカップリング(経済成長と環境負荷の完全な切り離し)」は現実的ではないとされています。効率性の向上は資本主義下では成長を刺激するために利用され、結果として資源・エネルギー使用総量を押し上げる「リバウンド効果」が起こることが指摘されています。

科学者たちは、グリーン成長の希望を実証的根拠がないものとして拒絶しており、GDPと物質利用の絶対的デカップリングは世界規模では不可能であると結論づけています。

サーキュラーエコノミーとの違い

循環型経済(サーキュラーエコノミー)は、リサイクルや資源の有効活用を進める考え方です。これ自体は素晴らしい取り組みですが、脱成長の視点では「それだけでは不十分」とされています。

なぜなら、エネルギーと物質の変換プロセスでは必ず一部が失われるため、100%のリサイクルは実質的に不可能だからです。そして、世界の再利用率が低下しているのは、リサイクルシステムの悪化ではなく、資源需要の成長がリサイクルの利益を上回っているためであると分析されています。

自発的簡素さとの関係

「自発的簡素さ(Voluntary Simplicity)」と脱成長は、物質的な所有を最小限にして、豊かに生きるという点で共通しています。

違いは規模と目的です。自発的簡素さが主に個人のライフスタイルに焦点を当てるのに対し、脱成長は草の根の動きを含みつつも、労働時間の短縮、富の再分配、公共財の脱商品化といった社会全体の構造的転換を求める、より広い社会運動なんです。

サステナブルやSDGsとの関係

実は、脱成長は従来の「持続可能な開発」やSDGs(持続可能な開発目標)に対して批判的な立場をとっています。

特に問題視されているのが、SDGsの目標8「経済成長」です。この目標は、脱成長の観点からは他の賞賛すべき目標(環境保護など)を台無しにし、対立するものとみなされています。

研究者のセルジュ・ラトゥーシュは、「持続可能な開発」という概念自体を「オキシモロン(自己矛盾)」と呼びました。成長を続けることと持続可能であることは、本質的に両立しないという主張です。

脱成長は、西洋的な開発の概念を脱植民地化し、異なる豊かさの形を模索する「ポスト開発」のプロジェクトと密接に関連しています。

脱成長のメリットとリスク

メリット

脱成長がもたらす可能性のある良い変化には、以下のようなものがあります:

環境面: 気候変動の緩和、資源の保全、生物多様性の回復

個人の生活: 労働時間の短縮は、失業の減少、生活の質の向上(幸福)、環境負荷の軽減(持続可能性)という「トリプル・ディビデンド(三重の配当)」をもたらすと研究で示唆されています。また、余暇の増加は民主的な統治への参加も可能にします。

社会全体: 富の再分配による格差の是正、ケア労働(子育て、介護など)の正当な評価

リスク・課題

一方で、脱成長にはリスクや課題もあります:

経済的混乱: 成長依存の社会で成長が欠如することは「災害(ディザスター)」となり得ます。成長を前提とした現在のシステムの中で急に成長が止まれば、不況のような混乱が起こる可能性があります。

地政学的リスク: 国際的な競争圧力や地政学的な困難が生じる可能性があります。

民主的プロセスの重要性: 移行は民主的・計画的である必要があり、そうでなければ「エコ権威主義(eco-authoritarianism)」や「エコ独裁」に陥る危険があります。

だからこそ、脱成長は「民主的に主導される」ことが強調されているんです。

よくある疑問(Q&A)

脱成長だと貧しくなるのでは?

脱成長は「個人的な貧困」ではなく、自発的な簡素さやコミュニティ、人間関係、ケアといった本質的価値にリソースを振り向け、生活の質を向上させる「節度ある豊かさ(frugal abundance)」を目指します。

資本主義は「人工的な希少性(artificial scarcity)」を創出することで蓄積を駆動しています。住宅、教育、公共財を民営化・希少化し、人々に生活のための労働と消費を強制的かつ恒常的に求めています。

脱成長では、富の再分配とコモンズ(共有財)の拡大によって、金銭的な富が減少しても、人々が生活に困らず、豊かな時間と人間関係を楽しめる社会を構想しています。

仕事は減らないの?

現在のシステムでは、経済が成長しないと失業が増えてしまいます。でも脱成長は「ワークシェアリング(仕事の分かち合い)」でこの問題を解決します。

生産性が向上しても出力を増やさない場合、労働時間を短縮して仕事を分かち合うワークシェアリングを導入することで、失業を防ぎつつ雇用を維持できます。

さらに、脱成長社会では、ケアや教育、芸術といった「人間同士の関わり」が価値となる労働が重視されるため、むしろ仕事の質が向上する可能性もあります。

現実的なの?

脱成長は「具体的なユートピア(現実的な理想郷)」と呼ばれています。

ピーター・ビクターによるカナダ経済のモデルでは、労働時間の短縮や再分配政策を組み合わせることで、GDP成長がほぼゼロであっても、失業率や貧困を大幅に削減し、債務比率を下げることが可能であると示されています。

むしろ、有限な地球で「無限の成長」を信じる方が、科学的に見て非現実的だという指摘もあります。環境活動家のグレタ・トゥンベリは、エリート層に対し、環境破壊が進む中で「無限の経済成長というおとぎ話(fairy tales of endless economic growth)」を語ることを無責任だと批判しました。

日本にとって脱成長は現実的か

日本には脱成長に適した条件がいくつかあります。

人口減少: 脱成長の観点からは、日本、ドイツ、イタリアなどで起こっている人口のピークや減少は良いことであり、他国にも広まるべきであるとされています。

雇用の柔軟性: 経済成長の低下が失業率に与える影響は国によって異なり、日本やオーストリアは0.15%と、スペイン(0.85%)などに比べて非常に低い柔軟性を持っています。つまり、成長なしでも雇用を維持できる政策的な可能性があります。

幸福のパラドックス: 日本では、所得が大幅に増加したにもかかわらず、生活満足度は数十年間ほとんど変化していません。もはや成長が幸福に貢献していない段階に達している可能性があります。

個人ができる脱成長的な暮らし

消費を減らす工夫

個人レベルでできることから始めてみましょう:

  • 長く使う: 流行に左右されず、質の良いものを選んで大切に使う
  • 修理する: 壊れたら捨てるのではなく、修理して使い続ける
  • 中古を活用: 古着やリサイクルショップを上手に利用する
  • シェアする: 必要な時だけ借りる、友人と共有する

お金に頼らない活動

市場経済の外側で豊かさを見つける方法もあります:

  • コモンズの活用: 図書館、公園など、みんなで共有できる場所や資源を使う
  • 地域活動: ご近所づきあいや地域のイベントに参加する
  • 贈与や交換: お金を介さず、物や技術を交換し合う
  • 非貨幣的な交換手段: 地域通貨や時間銀行など、既存の通貨に依存しない交換手段の活用

時間と関係を重視する生活

物質的な消費を抑え、自由な時間や人間関係を重視する「自発的簡素さ(Voluntary Simplicity)」を実践する人々は、消費主義に浸る人々よりも幸福度が高いことが心理学的な調査で裏付けられています。

物質的な豊かさよりも、家族との時間、友人との関係、趣味や学び、コミュニティへの参加といった非物質的な満足に時間を使うことで、生活の質が高まる可能性があります。

関連記事:物を減らすと何が変わる?シンプルライフのメリット・デメリットから考える「本当の豊かさ」

脱成長は「社会の話」であり「暮らしの選択」でもある

ここまで読んで、「個人の努力だけでは限界があるのでは?」と感じた方もいるかもしれません。その通りです。

政治なき個人の簡素な生活(simple living movement without politics)だけでは社会構造を変えるには不十分であり、個人の選択とマクロな制度改革の両輪が必要であると指摘されています。

でも同時に、一人ひとりの選択も大切です。私たちが日々の暮らしの中で「本当に必要なもの」を見直し、物質的な所有ではなく、時間や人との関係に価値を見出すこと。それは、より大きな社会変革へとつながる第一歩になります。

脱成長という考え方の本質は、「少なく所有し、豊かに生きる」という視点の転換にあります。

まずは、今の暮らしで”本当に必要なもの”を見直すことから始めてみませんか。

参考文献

本記事は、以下の学術文献および書籍の内容に基づいて作成されています。

  1. Degrowth – Taking Stock and Reviewing an Emerging Academic Paradigm
    掲載誌: Ecological Economics, Vol. 137
    出版社: Elsevier / ScienceDirect
  2. Degrowth: A Vocabulary for a New Era
    出版社: Routledge
  3. Degrowth (The Economy: Key Ideas)
    出版社: Agenda Publishing / Columbia University Press
  4. Less Is More: How Degrowth Will Save the World
    出版社: William Heinemann
  5. Prosperity Without Growth: Economics for a Finite Planet
    出版社: Routledge
  6. Farewell to Growth
    出版社: Polity Press
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