最近、「環境に優しい」「サステナブル」といった言葉を掲げる企業が増えてきました。消費者としては嬉しい変化のように感じられますが、実はその裏には「グリーンウォッシュ」という問題が潜んでいることをご存知でしょうか。
私自身、以前は商品パッケージに緑色の葉っぱのマークがあれば「環境に配慮している」と信じて購入していました。しかし、実態を知るにつれて、表面的なイメージだけで判断することの危険性を痛感するようになったのです。
グリーンウォッシュとは?
グリーンウォッシュとは、企業や組織が、その製品やサービスが実際よりも環境に優しいかのように偽りの印象を与えたり、誤解を招く情報を提供したりする欺瞞的な行為を指します。この言葉は、「グリーン」(環境)と「ホワイトウォッシュ」(ごまかし、隠蔽)を組み合わせた造語です。
この言葉は、1986年にアメリカの環境活動家ジェイ・ウェスターヴェルド氏によって作られました。きっかけは、フィジーのホテルがタオル再利用を促しながら、実際にはサンゴ礁の生息地を破壊する拡張工事を進めていたのを見たことでした。
現在、グリーンウォッシュはより巧妙になっています。欧州委員会の調査では、グリーン・クレームの42%が誇張、虚偽、または欺瞞的であったことが判明しています。
なぜ”エコ”を装う企業が増えたのか
企業がグリーンウォッシュに訴える背景には、主に以下の要因があります。
消費者需要の高まり:持続可能なブランドの製品により多く支払う消費者は66%にのぼります(ミレニアル世代では73%)。企業はこの市場トレンドから取り残されたくないため、環境に配慮していると宣伝し始めました。
市場での競争優位性:環境に配慮した製品は、プレミアム価格で販売できるため、経済的なインセンティブとなります。
現状維持の容易さ:既存のビジネスモデルを根本的に変更せずに、持続可能なソリューションへの需要に対応する手段として利用されます。
グリーンウォッシュの何が問題なのか
グリーンウォッシュは、消費者や環境に対して深刻な悪影響をもたらします。
消費者が全てのサステナビリティに関する主張を疑うようになり、真に持続可能な行動をとっている企業への信頼まで失われてしまいます。また、企業は実際には環境努力をしていないにもかかわらず、消費者を欺いて製品を高値で販売し、不当な優位性を獲得します。
さらに深刻なのは、本来、真の環境改善に充てられるべき資源が、欺瞞的なマーケティング活動に転用されてしまうことです。これは気候変動対策への具体的な行動を遅らせることにつながります。
実際にあったグリーンウォッシュの事例
ファッション・小売業界の例
H&M:「Conscious Collection」
ファストファッション業界は環境負荷が大きいため、グリーンウォッシュが蔓延しています。H&Mは、持続可能な素材を使用しているとするラインを導入しました。
H&Mは「Conscious Collection」を立ち上げ、「オーガニック」コットンやリサイクルポリエステルを使用していると宣伝しました。しかし、2021年の調査報告によると、H&Mのサステナビリティに関する主張のうち、96%が誤解を招くものであったとされています。同社は「Conscious」という用語について明確な定義や裏付けとなる情報を提供していませんでした。
食品・日用品業界の例
コカ・コーラ(Coca-Cola):「世界最大のプラスチック汚染企業」
コカ・コーラは、環境に配慮した企業であると主張しながら、プラスチック汚染の主因となっています。
「World Without Waste(ゴミのない世界へ)」キャンペーンを展開し、パッケージの持続可能性を強調しました。しかし、Break Free From Plasticの2020年年次報告書では、コカ・コーラは3年連続で世界最大のプラスチック汚染企業に選ばれています。また、同社はプラスチックボトルを廃止しない意向を表明しています。2021年には、環境団体から「持続可能で環境に優しい」という虚偽の広告を行ったとして訴訟を起こされました。
マクドナルド(McDonald’s):「紙製ストロー」の誤解
2019年にファストフード大手マクドナルドが、店舗から使い捨てプラスチックを削減する目的で紙製ストローを導入しました。この取り組みは、同社がプラスチック廃棄物削減に貢献しているというイメージを打ち立てるのに成功しました。
しかし、導入された紙製ストローは実際にはリサイクル可能ではないことが判明しました。また、同社の全体的な廃棄物量(年間約15万トンの包装材廃棄物)は依然として膨大であり、根本的な問題解決には至っていません。
Keurig(キューリグ)/ Nespresso(ネスプレッソ):コーヒーポッドのリサイクル問題
コーヒーポッド製造会社は、使い捨てカプセルの環境負荷について懸念する消費者を安心させようとしました。キューリグやネスプレッソは、ポッドがリサイクル可能または堆肥化可能であると主張しました。
しかし、ポッドの素材は技術的にはリサイクル可能ですが、一般の自治体リサイクルプログラムでは受け入れられず、特殊な専門センターや産業用堆肥化設備が必要でした。キューリグは虚偽広告で訴えられ、1000万米ドルの和解金を支払いました。ラヴァッツァ(Lavazza UK)も同様の理由で広告を禁止されました。
車・石油会社の事例
フォルクスワーゲン:「ディーゼルゲート」スキャンダル
2015年に発覚した「ディーゼルゲート」と呼ばれるスキャンダルは、グリーンウォッシュの最も悪名高い事例の一つです。
フォルクスワーゲンは、ディーゼル車を「クリーンディーゼル」キャンペーンの下で、低排出ガスで環境に優しいと大々的に宣伝しました。しかし実際には、排出ガス試験を受けていることを検知すると性能を変更し、排出ガスレベルを下げる「不正操作デバイス」が車両に搭載されていました。通常走行時には、これらのエンジンは許容される窒素酸化物排出量の最大40倍を排出していました。
フォルクスワーゲンは世界中で訴訟に直面し、罰金、和解金、買戻し費用として300億ドル(約333億ドル)以上を支払い、企業の評判は著しく損なわれました。
ブリティッシュ・ペトロリアムとシェル:名称変更によるイメージ操作
化石燃料大手ブリティッシュ・ペトロリアムは、企業イメージを変えるために大規模なリブランディングを実施しました。
2000年代初頭に社名を「Beyond Petroleum(石油のその先へ)」に変更し、ロゴも緑と黄色の太陽の光を模したデザインに変え、再生可能エネルギーのリーダーであるかのようにアピールしました。しかし実際には、再生可能エネルギーへの投資は総資本支出のごく一部に過ぎず、年間支出の96%以上は引き続き石油とガスに向けられていました。
シェルもまた、再生可能エネルギーへの取り組みを宣伝する一方で、長期投資のわずか1%しか低炭素電力に充てていないことが指摘されています。2021年には、オランダの裁判所がシェルに対し、2030年までにCO2排出量を45%削減するよう命じる画期的な判決を下しました。
グリーンウォッシュを見抜く3つのポイント
1. 主張の裏付け(科学的根拠と証拠)を確認する
真のサステナビリティの主張は、検証可能な証拠に基づいている必要があります。企業は、製品の環境への利点について、明確な詳細レポートやサプライチェーンのデータ、第三者認証などを提供すべきです。証拠がない主張や、漠然として裏付けがない主張には注意が必要です。
2. 言葉遣いとイメージの曖昧さを警戒する
「エコフレンドリー」「グリーン」「オールナチュラル」「サステナブル」といった漠然とした用語は、明確な定義や法的根拠がないことが多いため、警戒が必要です。また、製品が実際には環境に優しくないにもかかわらず、緑色や自然のイメージをパッケージに用いることで、環境に配慮しているという不当な印象を与えていないかを確認しましょう。
3. 全体像とライフサイクルを評価する
企業が製品の一つのポジティブな側面のみを強調し、その他の重大な悪影響を無視していないかを確認します。原材料の抽出から製造、使用、廃棄に至るまで、製品のライフサイクル全体を通して環境への影響を考慮しているかがポイントです。
本当に信頼できるブランドを選ぶには?
信頼できるブランドは、誠実さ、透明性、そして検証可能な行動に基づいています。
企業が温室効果ガス排出量について透明性の高い報告を行っているか、B Corp、Fairtrade、EU Ecolabelなどの確立された第三者認証を取得しているかを確認しましょう。
また、「カーボンニュートラル」という主張が、もっぱらカーボンオフセットに依存していないか、排出量削減やエネルギー効率の向上など、直接的な行動を優先しているかも重要なポイントです。
まとめ:消費者ができる”エシカルな選択”
私たち消費者一人ひとりが、グリーンウォッシュを見抜く力を身につけることは、企業に真の変革を促す第一歩となります。完璧な企業や製品を探すことに固執する必要はありませんが、「本当にこの製品は環境に配慮しているのか?」「この主張には根拠があるのか?」と一歩立ち止まって考える習慣を持つことが大切です。
本当のサステナビリティは透明性から始まります。企業が自社の環境への影響について正直に語り、課題を認め、改善に向けた具体的な行動を示すこと。そして私たち消費者が、その透明性を評価し、支持すること。この双方向のコミュニケーションこそが、持続可能な社会への道を開きます。
今日から、商品の「緑色のパッケージ」だけでなく、その裏側にある真実を見る目を養っていきましょう。それが、私たちができる最もエシカルな選択なのです。








