最近、雑誌やSNSでよく目にする「サステナブルファッション」や「環境にやさしい素材の服」という言葉。なんとなく地球にいいことは分かるけれど、具体的にどんな素材が環境にやさしいのか、すぐに答えられる人は意外と少ないのではないでしょうか。私自身も最初は「オーガニックコットンくらいしか知らない…」という状態でした。この記事では、環境負荷の少ない素材の特徴と、毎日の服選びで意識できるポイントを、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
そもそも「環境にやさしい素材」とは?
環境にやさしい素材とは、環境への負荷を最小限に抑えることを目指して作られた繊維のことです。これらの素材は、主に「どこから来たか(原材料)」と「どう作られたか(製造工程)」という2つの視点で判断されます。
持続的に栽培された天然繊維
天然繊維の中でも、農薬や化学肥料を使わずに育てられた作物や、動物福祉に配慮して飼育された動物から得られる繊維が該当します。従来の栽培方法と比べて、土壌や水質への影響が少なく、生態系を守りながら生産できるのが特徴です。
リサイクル素材・再生繊維とは
廃棄物や使用済みの製品から再生された材料のことです。ペットボトルや古着など、本来なら捨てられてしまうものを新しい繊維として生まれ変わらせることで、資源の無駄を減らし、新たな原料の採取を抑えることができます。
いずれの素材も、原材料の栽培や採取から、糸を紡ぎ、布を染めるまでの全製造工程において、環境へのダメージを最小限に抑えることが求められます。これらの素材を選ぶことは、資源の保護、廃棄物の削減、有害な化学物質の排除に直接つながるのです。
サステナブルファッションが注目される理由
サステナブルファッションが現在、これほどまでに注目されているのはなぜでしょうか。その背景には、従来のファッション産業が地球環境と人々の生活に与える深刻な悪影響があり、それに対する消費者意識の劇的な変化と、技術的な解決策への期待が高まっているという事実があります。
1. 従来のファッション産業が抱える環境問題の深刻化
特にファストファッションの生産モデルが地球に与える負荷は、もはや無視できないレベルに達しています。
巨大な汚染源であること
ファッション産業は、石油産業に次いで世界で2番目に大きな汚染源とされています。世界の炭素排出量の2%から8%を占めており、衣類が排出する二酸化炭素のフットプリントのうち、繊維の生産段階が3分の2を占めているのです。
資源の大量消費と廃棄物問題
従来の衣類製造では、水、土地、石油、農薬、化学薬剤が大量に消費されます。例えば、綿花(コットン)の栽培には膨大な量の水が必要で、農薬や化学肥料の使用は土壌や環境を深刻に汚染します。さらに、ファストファッションの「使い捨て文化」により、洋服は埋め立て地に送られる都市固形廃棄物の7.7%から8%を占めるまでになっています。
マイクロプラスチック汚染
ポリエステル、ナイロン、アクリルなどの合成繊維は、洗濯のたびに微細なプラスチック繊維(マイクロプラスチック)を排出し、水路や海洋を汚染します。海洋環境における一次マイクロプラスチックの20%から35%が、合成繊維の衣類の使用に由来すると推定されているのです。
2. 社会的・倫理的な懸念への対応
サステナブルファッションは、環境だけでなく、倫理的(エシカル)な側面も重視しています。これは、衣類が作られる過程での人権と労働環境の問題を解決するためです。
多くの衣類が製造される発展途上国では、労働者が低賃金や長時間労働といった搾取的な労働条件下に置かれています。また、製造工程で使用される有害な化学物質は、工場労働者の健康に深刻なリスクをもたらしています。さらに、従来のカシミヤやダウン(羽毛)の生産方法における動物福祉の問題(例えば、ダウンの生きたままの羽むしりなど)に対し、代替素材や倫理的な調達方法が強く求められるようになっています。
3. 消費者意識の高まりと市場の成長
これらの深刻な問題の認知が広がるにつれ、消費者の行動が大きく変化しています。
消費者は、単にトレンドを追うことから、衣類がどのように作られ、倫理的に調達されているかを意識するようになっています。あるイギリスとドイツの消費者を対象とした調査では、消費者の57%が環境負荷を減らすためにライフスタイルを変える意思があるとし、67%が持続可能な素材の使用を重視していることが示されています。
環境に配慮した製造方法を強調するブランドは、消費者からより肯定的に見られ、購入されやすく、より高い価格でも受け入れられる傾向があります。特に若年層(Z世代)は、転売や再利用プラットフォームを通じて、循環型ファッションへの関心を高めています。
このように、「なぜ今サステナブルファッションが大切なのか」という”Why”を理解することが、持続可能な選択への第一歩となるのです。
代表的な環境配慮素材
ここでは、実際にサステナブルファッションでよく使われる代表的な素材を紹介します。それぞれの特徴を知ることで、服選びの判断がぐっとしやすくなります。
天然繊維(植物や動物由来)
オーガニックコットン
合成農薬、遺伝子組み換え作物(GMO)、化学肥料を使わずに栽培されます。従来の綿よりも水の使用量が少なく、土壌への負担も軽減されています。
麻(ヘンプ/リネン)
水や農薬がほとんど不要で、成長が速く、土壌を豊かにする性質があります。耐久性が高く、使用後は自然に分解される生分解性も備えています。
アルパカウール
羊毛に比べて環境負荷が低く、放牧による牧草地の損傷が少ないのが特徴です。加工に有害な化学処理が不要なのも大きなメリットです。
コルク
コルク樫の樹皮から採取され、木を伐採する必要がありません。再生可能で生分解性があり、ユニークな質感が楽しめる素材です。
再生・リサイクル素材
リサイクルコットン
廃棄された衣類や製造時の切れ端から作られ、バージンコットンに比べて水とエネルギー使用量が大幅に少なくなります。
リサイクルポリエステル(rPET)
ペットボトルなどの既存のプラスチックを再生して作られます。バージンポリエステルよりもエネルギー使用量を最大59%削減できます。
ECONYL®(再生ナイロン)
廃棄された漁網や産業プラスチックから再生されたナイロンです。バージンナイロンの生産と比較して、資源の使用が少なく、廃棄物も減らせます。
デッドストック生地
過剰に発注されたり、売れ残ったりした生地を再利用することで、新しい生産を避け、資源を節約します。
革新的な素材(植物ベースの代替品など)
TENCEL™ Lyocell(テンセル™ リヨセル)
主にユーカリの木材パルプから作られます。製造プロセスで水や溶剤の**99%がリサイクルされる「閉ループシステム」**を採用し、環境負荷が非常に低いのが特徴です。柔らかく肌触りも良いため、人気が高まっています。
Piñatex®(パイナップルレザー)
パイナップル収穫の**副産物(葉の繊維)**から作られる革の代替品です。廃棄物の再利用になるため、追加の土地や水を必要としません。
Qmonos(クモ糸)
クモの遺伝子と微生物を使って発酵によりタンパク質を生成し、糸を紡いだ生分解性の合成バイオ素材です。動物を飼育する必要がなく、強度が高く柔軟という優れた特性を持っています。
SCOBYレザー
コンブチャ製造で生じるバクテリアと酵母の共生培養物(SCOBY)から作られる、生分解性の革代替素材です。エネルギーと水の使用量が少なく、有害な廃棄物がほとんど出ません。
注意点(より持続可能な選択のために)
「環境にやさしい」とされる素材でも、製造過程で化学物質が使われたり、倫理的な問題が残ったりする場合があります。
例えば、バンブー(竹)は成長が速く環境にやさしいイメージがありますが、竹繊維を柔らかい生地にするために有毒な化学物質が大量に使われることが多いため、注意が必要です(「バンブー製のレーヨン(ビスコース)」として知られています)。素材名だけでなく、製造工程まで確認することが大切です。
環境にやさしい服を選ぶときの3つのポイント
「どの素材を選べばいいの?」と迷うときは、次の3つを意識すると判断がしやすくなります。
素材表示をチェックする
服のタグに記載された「オーガニックコットン」「リサイクルポリエステル」などの表示を確認しましょう。認証ラベル(例:GOTS、OEKO-TEX)があれば、より信頼できる目安になります。
長く着られるデザインを選ぶ
トレンドを追うよりも、着回しやすさや丈夫さを重視することが大切です。長く愛用することも、立派なサステナブル行動になります。私自身、シンプルなデザインの服を選ぶようになってから、クローゼットがすっきりし、本当に気に入ったものだけを大切に着るようになりました。
認証マークを確認する
製品が本当に持続可能であることを確認するために、GOTS(Global Organic Textile Standard)やGRS(Global Recycle Standard)などの第三者認証マークを探すことが推奨されます。これらのマークは、厳しい基準をクリアした証拠です。
古着を選ぶ
古着を選ぶことで、捨てられる洋服の量を減らすことができます。最近では、おしゃれな古着ショップやフリマアプリなども増えているので、掘り出し物を見つける楽しみもあります。
まとめ|今日からできるサステナブルな選択
環境にやさしい素材を意識することで、ファッションが地球の未来を変える一歩になります。大切なのは完璧を目指すことではなく、「できる範囲で選ぶ」こと。すべての服をサステナブル素材にする必要はありません。次に服を買うとき、素材タグを少しだけ気にしてみる。それだけでも、あなたの選択が確実に変化を生み出します。
私たち一人ひとりの小さな選択が、やがて大きな流れを作っていきます。今日から、あなたもサステナブルファッションの一歩を踏み出してみませんか?
参考資料
35 Sustainable Materials For Eco-Friendly Fashion
A guide to the 10 most sustainable fabrics
The Top 8 Sustainable Fashion Materials for Clothing Brands
A Guide To Sustainable Fashion Materials








